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06/29/2005

【映画】『アイズ ワイド シャット』短小トム

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キューブリックというと、何を書こうとしてもつい肩に力が入ってしまうのだが、今度の作品はなかなか一筋縄ではいかないので、見るたびに、思いついたことをつらつらと書いていくことにする。

見てすぐ気がついたこととしては、この作品って要するに、男性能力に自信がない、おそらくは短小コンプレックスに悩む男が、何とかアヴァンチュールをしようと試みるものの結局は挫折するというお話なのね。少なくとも表面的には。


始まって3分もすると、少々異様なことに気がつく。トム・クルーズが異常に背が低く見えるのだ。いや、「見える」のではなく、男であれ女であれ、出てくる俳優がことごとくトム・クルーズより実際に背が高いのだ。
確かにトム・クルーズはハリウッド・スターとしては決して背が高い方ではないが、それにしても映画の出演者中もっとも背が低いというのは、いくら何でも異常だ。これは間違いなく演出意図と考えていいだろう。
そして非常に単純ながら、これはトム(の演じている役)が「短小」であることの暗喩なのだろうだと解釈出来る。もちろん現実においては「背が低い=短小である」とは言えないが、一番視覚的にわかりやすいだけに、映画における記号表現としては有効であろう。

身長の問題にとどまらず、全編にわたってトムの男性としての能力欠如を暗示する表現が続く。

妻であるニコール・キッドマンがそのスレンダーで美しい肉体を誇示しまくっているのに対し、トムの方はほとんど裸を見せようとしない。ベッドルームでラリった妻に散々言われるシーンでは、妙にさわやかなトランクス一丁で演技をしているが、その肉体はマッチョにはほど遠いもので、まるで少年のように弱々しい。男っぽい筋肉もなければ、胸毛もない。開巻間もなく登場するシドニー・ポラック(同姓同名の俳優かと思ったら、本当にあの監督だったので驚いた)の、胸毛もじゃもじゃでオスの匂いがプンと鼻を突きそうな肉体と、見事な対象をなしている。
乳首の透ける下着(女性の強調)で無防備に動き回るニコール。それに対して(男性器が強調されやすいブリーフではなく)トランクスを履き、腰を後ろに引いたような格好でベッドに座っているトムは、まるで自信のもてない男性器を防御しているかのようだ。

街を歩けばマッチョな学生たちにはじき飛ばされ、「オカマ野郎」とバカにされる。一念発起して娼婦を買おうと思えば、妻からの電話にびびってそれも果たせない。そして何もしていないのにお金を払い、「いい人」を演じることになる。


そんなトムが、まさに童貞を捨てるかのごとき覚悟で挑んだ、謎の仮面乱交パーティー。だがここでも彼はことを果たすには至らない。それどころか、「大人の仲間入りをするだけの能力がない者」として、命からがら追放される。この追放が「単なる異物」を排除する儀式ではなく、「能力のない者」を排除する儀式であることは、「みんながリムジンなのに彼だけはタクシー」「衣裳は借り物」「他の参加メンバーは、その名前を知ったら夜眠れなくなるような連中」、そして何よりも「ただ一人仮面を剥がされる」という表現からも明らかだ。彼は大人の男女だけが集うパーティーを覗き見しようとした、好奇心だけは人一倍の童貞少年だったのだ。そんな中で、彼は裸にされ、さらし者にされたわけだ。


その屈辱をはらすべく、謎の実体を追い回すトム。だがそこで明らかになっていくのは、彼の男性能力の未熟さだけだ。

ホテルのロビーでオカマのフロント係に色目を使われるシーンは、一見唐突に思えるが、これはマッチョな学生たちに「オカマ野郎」とバカにされるシーンに呼応している。大人の女には相手にされなかったが、学生たちの言う通りオカマ/ゲイなどには好かれるわけだ。

衣裳を返しに行くと、そこには昨夜自分に色目を使ったロリータ娘がいる。父親までが暗に「ご興味がお有りなら…」と誘っているのに、彼女の何ら悪びれぬ態度に臆したのか、結局何もできない。

同じく昨夜、自分に求愛してきた女に電話すると、電話を取ったのは彼女のフィアンセ。慌てて電話を切るトム。これまた何も出来ず。

それならばと娼婦のもとにケーキを手みやげに出かけてみれば、何と彼女は自分がHIVポジティヴだと知って失踪した後(笑)。「もしあの時無防備にセックスをしていたら…」とびびるトム。精神的には、もうこの辺でほとんどインポテンツ状態に陥っていたことだろう。

そして自らの好奇心によって、一人の女性を死なせてしまった事実に愕然とするトム。

シドニー・ポラックから謎の一端を説明され、要するに「あそこは君みたいなケツの青い子供が来るところじゃないの。これ以上痛い目を見ない内に家に帰って、ママのおっぱいでも吸ってなさい。それが君の分ってものだよ」と説教されるトム。

そして最後の決定打。家に帰ると夫婦のベッドにあの時の仮面が置かれている。
これは最初に見たとき、組織(?)が警告のために置いていったもので、それを見たトムが完全にびびって、ついにすべてを告白したのだと解釈した。だがもっと普通に、たまたまニコールが拾って置いていた仮面を見て「ああ、オレは何と恐ろしい世界に足を踏み入れたんだ。一つ間違えば、妻と娘もあんな風に殺されていたのかもしれない」と恐怖におののき、すべてを告白したという風に解釈しても問題ないと思う。
また精神面からの解釈で言えば、トムは秘密の一端を知り、その他の様々なエピソードとあいまって、自らの男性能力欠如を嫌と言うほど知ることになった。そのときあの仮面を見たことで、昨夜の屈辱と自分の無能さに打ちのめされ、思わず嗚咽してしまったわけだ。

ついでに言うと、あの背の低さが短小の暗喩だとすれば、あの仮面はひょっとすると包茎の暗喩かもしれない(笑)。つまりあの仮装パーティーは、彼にとって大人への仲間入りの儀式、すなわち「割礼」の儀式だったわけだ。本来ならあそこで彼はあそこで痛い目にあう(包皮を切除される)はずだった。だが彼はそこをママ(あの女性は明らかに彼の「保護者」だった)に助けてもらったことで、痛い目にはあわなかった代わりに、大人にもなれなかったわけだ。つまり彼はあの仮面を見ることで、自分が「短小包茎の童貞にも関わらず、大人のパーティーに紛れ込み、あわよくばそのおこぼれに預かろうとしたませガキ」であるという事実を突きつけられ、あまりの恥ずかしさに嗚咽してしまった…そういう解釈も成り立つ。


なるほど。トム・クルーズって実は短小包茎だったのか(^^)


…って、そういう問題じゃないってば(笑)。


でもこれを読んでいるあなた、今絶対にその光景を想像したでしょ?(笑)


ではそんな下世話な話を通して、結局キューブリックは何を描こうとしたのか?


それはこれから繰り返し見ながら、考えることにしよう(笑)。


とりあえず見る前は、その題材から『ロリータ』が比較対照になるのではと思っていたが、むしろ一番近い作品は『時計じかけのオレンジ』ではないだろうか? 性欲に自由であろうとした男が体制によって去勢されるというアウトライン、それが最後の最後に「これですべて元通り」となるアイロニカルな結末、「仮面パーティー」「ルドビコ療法」という中盤のクライマックスを境に前半と後半がほぼ完全な対称形をなす構成など、実によく似ている。


しかし奥が深いのか浅いのかさっぱりわからん、実に不思議な作品だ。


(1999年8月初出)

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