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06/22/2005

【映画】『パーフェクト・ストーム』海の男の生と死

ハリウッドに渡ってからのヴォルフガング・ペーターゼンの映画は、『シークレット・サービス』こそ面白かったものの、『アウトブレイク』『エアフォース・ワン』共に、個人的には最低だった。そのため限りなく期待値を低くして見たのが幸いしたのだろうか? 意外なくらい引き込まれてしまった。

なるほど船が出航するまでは確かにかったるい。だが元ダイアン・レインのファン(『リトル・ロマンス』は僕の'79年のベスト・ムービー)としては、それなりに歳をとった、でもやはりかつての美しさを止めた彼女の顔を見ているだけで、いろいろな思いが去来して、退屈することはなかった。その後海に出てから嵐に出会うまでの展開も、それなりに見られたのは意外だった。

凄まじい嵐が吹き荒れる後半はもちろん圧倒的。だが全編を通して感じられたのは、嵐の凄まじさと言うより、海の持つ圧倒的なエネルギーと非情さだった。その意味からも、海の男たちへの鎮魂歌としてラストが締めくくられたのには大いに納得した。

そして後半の最大のポイントは、主人公である漁師達と救助隊の行動を同時並行で描いた点にある。救助隊と漁師の立場は180度正反対のはずなのに、実際の行動そのものは「おいおい、そんなことやってたら命がいくつあっても足りんだろ(^_^;)」と言う他ない無茶苦茶さにおいて全く同じなのだ。

そこで示されるのは、「救助する者」と「救助される者」という正反対の立場にあるはずの救助隊と漁師が、「板子一枚下は地獄」の世界に生きる「海の男」という本質においてまったく同じという事実だ。あの救助隊の描写が他の映画の文脈にあったら、典型的なハリウッド式パニック映画、スペクタクルのためのスペクタクルに終わったかもしれない。だがあのように両者の行動が同時並行で描かれ、しかも「救助する者」だったはずの救助隊が途中から「救助される者」になることで、両者の同質性がさらに明確になっていく。

一番よい例は、自分の命すら顧みずに仲間の命を助けようとする彼ら(救助隊員/漁師)の行動だ。もし救助隊のシーンでいきなり「仲間を助けるために再び荒海に飛び込む隊員」という描写があったら、よくあるステレオタイプな描写として、それほどの感慨は抱かなかったことだろう。しかしこの作品の前半には、落水した仲間を見るや反射的といってもいいスピードで海に飛び込んでいく漁師の姿が描かれている。それによって「板子一枚下は地獄」という世界の厳しさ/怖ろしさ、その世界で生きる男たちにとって落水した仲間を助けるという行為は、個人の好き嫌いなどを超越した絶対の倫理であることが明確に描かれている。

なるほど全体の構成にはかなり食い足りないところがある。「ここをこうすればもっと盛り上がったのに」という点を数え上げたら切りがない。だがこの作品の面白さは、むしろそういうハリウッド的な盛り上がりを意図的に回避して、次々とこちらの予想を覆してくれる点にあるとも言える。前半は「要するに『タイタニック』の亜流作品なのでは?」と思っていたのだが、荒波の中にただ一人取り残されるマーク・ウォルバーグの姿には、『タイタニック』のドラマチックなクライマックスにはない非情さと孤独感が溢れており、その本質においてむしろこれが『タイタニック』のアンチ的な作品であることがわかる。

また「ハリウッド的」ということであれば、事実をかなり脚色してでも、救助隊のドラマと漁師たちのドラマをクライマックスでクロスさせたはずだ。その方がドラマとしてもスペクタクルとしても絶対に盛り上がるからだ。にも関わらずペーターゼンは、ついに両者を出会わせることなく、別々のドラマとして(ただし同時並行で)描いた。
それは先に述べたような「海の男たち」の普遍的な姿を描きたかったからだと思う。両者をクロスさせ、スペクタクルとして盛り上げれば盛り上げるほど、逆にこの映画は特殊な人たちの特殊な状況における特殊なドラマになっていく。そのような特殊性を排し、海の男たちの「人生の一部」としてこの災害を描くことが、おそらくペーターゼンの意図だったのだろう。そして救助される者が一瞬にして救助される側に回ってしまう展開、アンドレア・ゲイル号に、ついに一片の救いももたらされない結末と相まって、海という巨大な存在の持つ非情さ、そこで生きることの恐怖と孤独、そして誇りがひしひしと伝わってくる。

それにしても最近のジョージ・クルーニーはいい。作品の選択眼も含め、今最も信頼できる俳優の一人と言っていいだろう。


(2000年8月初出/2001年1月改訂)


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