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06/19/2005

【映画】『バットマン ビギンズ』演技の力に勝るもの無し?

新しく生まれ変わったバットマンシリーズ第1弾。DCコミックスを元に、ティム・バートンが作り上げ、ジョエル・シュマッカーが引き継いだ以前のシリーズとは、まったくの別物に仕上がっている。コミック的な要素はほとんど排除され、リアルな描写の連続。以前のバットマンシリーズよりも、むしろ007シリーズに近い作品と言っていいだろう。

まず大きな問題点。アクションシーン、とりわけ格闘シーンの描写が驚くほどダメ。カメラワークがメチャクチャで、誰がどこで何をやっていて、どんな技を繰り出しているのかほとんどわからない。敵にとっては正体不明のバットマンが暗殺者のように一人一人を倒していくシーンはそれでもいいが、全編を通して同じ状況なのだから、単なるアクション演出の失敗だろう。この点については、まったく評価できない。

また、以前とは比較にならないほどリアルな作風なのに、肝心なところでストーリーに穴があるのにも首を傾げる。特にクライマックスとなるゴッサムシティ破壊の計画は、結局何がどうしてそうなるのか、わからないことだらけだ。

バットマンという作品の性格からすれば、以上の2点はかなり致命的なもので、失敗作と言っても差し支えないはずだ。

にも関わらずこの映画、全体として見ると非常に面白いのだ。

アクションの見せ方もダメなら、ストーリーにも穴がある…そんな映画がなぜ面白いのだろう? 元々バットマンというキャラクターが好きで、それを大人向けのタッチでリアルに描いてくれるだけでもOKという部分はあるが、それだけで140分の長尺を退屈せずに見られるとは思えない。むしろリアルなだけに退屈する部分も増えるはずだ。だがこの映画で退屈したシーンは、せいぜい主人公と幼なじみの恋人との絡みくらいで、他はすべて適度に心地よい緊張感に満たされている。

考えられる主な理由は四つだ。

まずアクションシーンはダメだが、全体の絵作りがとても魅力的なこと。以前とはまったく違う硬質なルックで、ほぼ寒色系のみの色づかい。前シリーズが夜のシーンばかりで昼のシーンがほとんどなかったのに対し、本作は昼のシーンがかなりある。にも関わらず、本作の方が映像的には遙かにストイックで寒々しい印象。これが非常に魅力的だ。夜の闇を駆けめぐるバットマンの姿も、これこそ本当のバットマンと言いたくなる。

第二に、映画としてのテンポが非常によい事。問題のアクションシーンも、肉体アクションとしての絵作りはダメだが、編集が良いせいで「アクションを撮した映像」ではなく「映像のアクション」として見ると、決して悪くないのだ。僕は『メメント』をほとんど評価していないが、そう言えばあの作品も、ストーリーはどうでもいいが映画としてのテンポは良かったような記憶がある。最大の不安要因だったクリストファー・ノーラン監督の起用は、必ずしも間違いではなかったようだ。

第三に、タイトル通りバットマンが誕生することになった経緯を、ブルース・ウェインの子供時代から丹念に描いているため、素直にストーリーに入り込めること。しばしば言われる事だが、大富豪が夜な夜なコウモリの扮装をして悪人を退治するバットマンは、相当異常な人物である。ティム・バートン版でも、そんな自分の異常さに悩むウェイン/バットマンが描かれていたが、彼がそんな両面性を持つに至った経緯は、本作の方が遙かに強い説得力を持っている。
早い話が、この作品は善と悪の相克に悩むブルース・ウェインが、いかにして自分の心の中の矛盾を解決するかという成長ドラマなのだ。アクションやサスペンスは、あくまでもオマケに過ぎない。だからアクションシーンの絵作りに問題があっても、結果的にはそれが致命傷とならなかったのだ。

そして第四に、おそらくこれが最大の理由だと思うが、出演者の演技が皆非常にしっかりしていること。ストーリーに多少の穴があっても、彼らのリアルな演技によって、何となく納得させられてしまうのだ。
クリスチャン・ベールは歴代バットマン役者の中でもダントツのはまり役。初代のマイケル・キートンは、バットマンよりも素顔のブルース・ウェインでの演技が光っていたが、ベールはバットマンとしての身のこなしや声の演技が比べものにならないほど素晴らしい。たった一人で何十人もの敵を倒してしまう描写も、彼だからこそ納得できる。さすがにガンカタを極めた男は切れ味が違う(笑)。
脇役に演技派をずらりと揃えているのも本作の大きな特長で、その中では特にリーアム・ニーソンが素晴らしい。マイケル・ケインも同様だが、執事のアルフレッドは誰がやっても美味しい役どころなので控えめに評価しておこう。モーガン・フリーマンは『ミリオンダラー・ベイビー』を見た後では少し物足りない感じもするが、彼が出ている事で、この作品の風格が一段アップしている。久しぶりに見るルトガー・ハウアーも渋いし、言われなければ絶対に彼だとわからないゲイリー・オールドマンのカメレオンぶりも凄い。難点はヒロイン役のケイティ・ホームズにまるで魅力がない事と、ブルース・ウェインの父親役があの人だという事(笑)。いや、後者に関しては、最近公開されたある映画を見ていない人には関係ないかもしれないが… 
そして我らが渡辺謙は、はっきり言ってチョイ役だった。それも「え? これで終わり?」と言いたくなる、かなりひどい扱われ方。くれぐれも彼を目当てにこの映画を見ない方がいい。


ラストには続編への布石が示されていて、思わず「おおっ!」と声を上げたくなった。これも「終わりよければ全てよし」で評価が上がった一因だ。


しかし本作で「バットマンは悪を滅ぼすが人は殺さない」というルールを作ってしまったのは、今後の展開でかなりの足枷になりそうな気もする。そのルールを守りつつ、どんな面白い映画を作ってくれるか、大いに期待しよう。


(2005年6月初出)

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