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06/18/2005

【演劇】ク・ナウカ『巷談宵宮雨』2005.6.10

ク・ナウカ『巷談宵宮雨』(こうだんよみやのあめ)
2005年6月10日(金) 和敬塾 和楽荘


先日の『葵上』に続いて、またも旧細川侯爵邸に作られた和敬塾での公演。駅は護国寺なので会社からはすぐに着いたが、かなりの雨が降る中、護国寺から上り坂をのぼっていくのは少々たいへんだった。先日のように良い天気で時間があれば心地よい場所だが、こんな日にはあまり有り難くない立地だ。

開演は19時半から。19時開場だと思っていたので18時40分に着いたが、開場は19時15分過ぎから。寮の食堂横の部屋でかなり待つ事になった。まあ滅多に来るところではないので、物珍しさで退屈はしなかったが。

会場となる和楽荘は、先日の本館とはまったく違う古臭い民家。もちろん今はなかなか見る事の出来ない典型的な日本家屋だが、思わず溜息が出るような本館の作りに比べると、いかにも貧乏くさい。
整理番号は2番だが、1番の人がいなくてトップで入る事になる。前の方は座布団、後ろの方は段差を付けるための椅子がある。座布団は足腰が疲れるので最初は後ろに座ろうとしたのだが「前の方が良いお席ですよ」と勧められて、結局また最前列ど真ん中に座る事になった。最前列ど真ん中は、他の観客の視線を浴びる事になるから、気が抜けなくてけっこうたいへんなんだよ…

『巷談宵宮雨』、まったく聞いた事のない作品だが、解説によれば宇野信夫という劇作家によって書かれた歌舞伎で、昭和10年に初演されたそうだ。つまり歌舞伎としてはかなり新しい演目だ。元の戯曲がどう書かれているかは知らないが、台詞はすべて現代語だった。


最初に数分間、真っ暗闇の中での芝居が続く。その間台詞だけが暗闇の中に響く。この長さがなかなか絶妙で、不安と閉塞感をかき立てる。

そして突然照明がつくと…やば!(^^;) 完全な真正面、手を伸ばせば簡単に届く距離においち役の諏訪智美が正座し、真っ直ぐこちらを見つめている。こちらはまるでヘビににらまれたカエル。うっかり彼女の目を見つめてしまったため、「視線をそらした方が負けよ」のにらめっこ状態となる(笑)。いや、まさか向こうにそんなつもりはないと思うが(笑)、なぜか彼女と視線が合った瞬間「ここで目をそらしたら負けだ」という何の意味も根拠もない心理状態に陥ってしまったのだ。諏訪智美の視線がそれほど鋭く、邪悪な攻撃性を秘めていたということだろう(もちろん役柄上の話)。
結果は…私の負け(笑)。耐えきれなくなって、つい1回目をそらしてしまった。その間も、その後も、諏訪智美の視線は微動だにしない。こちらを認識しているのか、それとも物理的にこちらを向いているだけで何も見ていないのかもわからない。こういう場における役者の集中力には、毎度ながら恐れ入る。

舞台は民家の一室なので段差などはない。上手と下手の両方に花道のようなものが作られていたが、ほとんどの芝居は目の前にある同じ高さの座敷で演じられた。

前半は、牢から出てきた元住職の龍達と、その甥夫婦のドロドロした人間関係を描く世話物。それが後半、百両のために殺された龍達の亡霊が、甥夫婦を死の世界に引きずり込んでいく怪談に変貌する。さながら『四谷怪談』のような雰囲気だ。

物語として面白くなるのはもちろん後半だが、前半もまったく退屈しない。最大の理由は、龍達を演ずる藤本康宏の迫力ある演技だ。墓場に片足を突っ込みながら、まだ欲望を捨てきれない生臭坊主の匂いがむんむんと漂ってくる。すぐ目の前で演技されるため、思わずたじろいてしまうほどの濃厚さだ。こういう演技は他のク・ナウカの作品では見られないだけに驚きも大きい。
それに負けず劣らず素晴らしいのが、諏訪智美の氷のような美しさだ。単に美しいだけでなく、それが氷のような悪女の魅力として物語の中に生かされている。諏訪と藤本二人だけの芝居になると、炎と氷、獣と美女の絡み合いが、やばいとしか言いようのない雰囲気を醸しだし、思わず鳥肌が立つ。こんな生々しい空間は、ク・ナウカの芝居では見たことがない。
それにしてもク・ナウカは本当に美人女優の宝庫だ。最近若手中心の芝居を見ると、「美加理さん以外にも、こんな綺麗な人がいたんだ」と驚かされることばかり。ただしその顔立ちが明らかに美加理と同系列なのは何故?(笑) まあ、ク・ナウカの芝居には、あのような人形的に整った美貌が似合うことは確かだが。
もう一人の主要人物である太十役の石川正義は、あとの二人に比べるとかなり印象が薄い。ヘアスタイルが現代風なのにもちょいと違和感。台詞は現代語だが、他の登場人物は皆時代劇の装いなので、彼一人だけ浮いている感じがした。ただし、最初から欲に目が眩んだ悪人というわけではなく、幾つかの偶然と感情的な成り行きからおじを殺してしまう心理の変化は、無難にこなしていたと思う。


これまで中野真希の演出とはどうも相性が悪かったのだが、この作品での演出は文句なしだ。狭苦しく薄暗い日本家屋の構造をフルに活用しているのが大きな見物。なぜ和楽荘が会場として選ばれのか大いに納得できた。普段のク・ナウカと違って奇をてらった部分はほとんどなく、非常にストレートな日本的怪談に仕上げているところも好感が持てる。
その中でただ一つ型破りな演出が音楽。本編中は不気味なSEのみだが、場面転換の部分に使われる音楽がなぜかジェフ・ベックの『ブロウ・バイ・ブロウ』(笑)。特に諏訪智美が「ユー・ノウ・ホワット・アイ・ミーン」をバックに踊る場面の滑稽かつ異様な姿は強く印象に残った。


名前は知っていたもののまったく顔が思い出せない、いわばク・ナウカの中では二軍選手の役者たち。あまり相性の良くない中野真希の演出。聞いた事もない演目。ク・ナウカの最大の個性である人形浄瑠璃スタイルもパーカッションの生演奏もなし。期待できそうな要素がほとんどないこの芝居が、結果的にはこの1年半で最も面白いク・ナウカ作品になったのだから世の中はわからない。見終わって強い感動を覚えたり、演劇に対する概念が変わったりするような作品ではないが、ある種のエンタテインメントとして、とてもよく出来ていると思う。ク・ナウカの公演で、このような普通に面白い芝居を見られた事が新鮮な驚きだった。彼らの芝居は、『天守物語』を除けば、どの作品も何かしらこちらの期待や予想を裏切る部分があって、「偉大なる未完成品」という印象がつきまとう。そこが歯がゆくもあり、同時に毎回足を運ばずにはいられない理由にもなっていた。ところがこの作品は、まったく期待が持てない条件で最も面白い芝居を見せることで、またもこちらの予想を裏切るという裏の裏をかく戦法。本当に一筋縄ではいかない劇団だ。

ともあれ雨の中を和敬塾まで歩いた甲斐があった。ク・ナウカの芝居で、これだけ無条件に満足できたのは『天守物語』以来のことだ。


次の公演は静岡で『トロイアの女』。杉山夏美の出演には惹かれるが、これはパス。その次の東京公演、美加理主演の『王女メディア』はすでに2回分チケットを押さえてある。『アンティゴネ』はいろいろな点で不満の残る失敗作だったが、こちらは特に評判の良かった作品の再演だから、まず間違いはないだろう。実に楽しみだ。


(2005年6月初出)

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Comments

はじめまして。
TBありがとうございました。

ク・ナウカはここ数年、新しい方向性を探っていて、若
手を使う機会が増えてきているように思います。そんな
中から新しい役者さんに出会え、楽しみの一つになっ
ています。

昨年の『アンティゴネ』は私も不満の残る芝居でした。
あれは会場に懲りすぎたように思います。もう少し小さ
い小屋で観たいと思いました。

Posted by: lysander | 06/19/2005 00:09

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