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06/14/2005

【演劇】青年団『南島俘虜記』2003.10.4

青年団『南島俘虜記』2003年10月4日(土) 19:00〜 こまばアゴラ劇場


青年団、初観劇である。劇場は例によってこまばアゴラ劇場。それにしても東大駒場前の駅から劇場に行くまでの間、ほとんど何もないのにはあらためて感心する。こんなうら寂しい住宅地に劇場があったり、すぐ隣にそこそこ大きなコンビニがあったりするのは、ちょっと異様な光景だ(中野のザ・ポケットも似たような感じだが)。あのコンビニは、劇場の客や関係者でもってるようなものだろうな。
【注】2005年6月
こまばアゴラの敷地と建物は、平田オリザの持ち物。つまり自宅だそうだ。


時代設定は現代、ただし日本はどこかの国と戦争している最中という、ちょっとSFチックな内容。舞台はどこか南の島にある日本人の捕虜収容所。と言っても、それほど悲惨な施設ではなく、かなりの自由がある。捕虜たちは、そこでの平和な生活にどっぷりつかりながら、ただ倦怠しているだけだ。
女性捕虜が妊娠したり、日本に残してきた娘を思い出して中年の捕虜が泣き出したりといった若干のさざ波はあるが、基本的には彼らの退屈な日常生活を淡々と描くだけ。事件らしい事件も起こらず、クライマックスと言えるようなクライマックスもないまま「え? 本当にここで終わり?」というような形で芝居は終わりを迎える。
だがそもそもこの芝居はいつ始まって、いつ終わったのだろう? 何しろ客が入場したとき、すでに舞台に役者がいて、そこで寝転がって本を読んだりしているのだ。捕虜たちの日常は、観客の存在などとは無関係に、ずっと前から始まり、観客が去った後も続いていく…そんな不思議な印象を残す作品だ。

少年王者舘などとは対極にある静かな演劇であり、ドラマ的な盛り上がりを排除したストーリーは、一歩間違えれば「退屈を描いた芝居」ではなく「退屈な芝居」になってしまう。それを救っているのは、登場人物の出し入れから台詞のやり取り、細かなユーモアまで含めた、見事なリズム感だ。
それに加えて役者が全員素晴らしい。先日この劇場で見た『貝殻を拾う子供』と比べてみれば、台詞回しといい立ち居振る舞いといい、段違いのレヴェルにあることがわかる。誰もが、本当にそこで生活しているような雰囲気を醸し出しているのには驚くばかりだ。
(念のために言っておくが、『貝殻を拾う子供』の戯曲自体は素晴らしい。ただしあれは小劇場よりも、もう少し大きな劇場で商業演劇として演じられた方が、さらに魅力を発揮できる作品だと思う)

また、退屈な日常と、その中で繰り返される悲喜劇は、昔からチェーホフ劇に親しんできた人間にとっては、非常に馴染み深い世界でもあった。モチーフとなった大岡昇平の『俘虜記』は読んでいないので厳密な分析はできないが、この作品にチェーホフ劇の遺伝子が組み込まれていることはまず間違いないだろう。
違うのは、チェーホフがロシアという国の行く末を案じる以上に、そこで泣き、笑い、苦しむ人々一人一人の人生をじっと見つめているのに対し、平田オリザはもっと時事的な視点から「日本民族は遅かれ早かれ滅びることになるだろう」という憂国の思いを描いていることだ。その分、人物描写は若干薄めだし、時代や国境を超えていく普遍性には欠けるが、この作品に描かれた「退屈」と「退廃」、そして「ほの暗い絶望」は、現在の日本人にとってとても身近なものだと言える。

総合的に評価すれば、大傑作というほど優れた作品ではない。強いて言うなら小傑作といったところか。平田オリザの戯曲作家としての手腕には感服したが、逆に「この内容をこんな風に書ける人なら、もっと優れた芝居も書けるんじゃないか」という思いは禁じえない。実のところ見終わった直後は、いささか肩すかしを食らった気もしないではなかった。
だが面白いもので、見終わった直後よりも、数日してから妙に心に響いてくるのである。最初は未消化だったものが、主にチェーホフ劇との関係性から、自分の心の中にうまい具合に浸透してくる…そんな感覚を味わうこともできた。

少年王者舘やク・ナウカのように「今後公演があったら絶対に見る!」と意気込むほどではないが、むしろこの一作だけでは全体像がつかめないだけに、平田オリザと青年団にはしばらくの間注目しなくてはなるまい。


【注】2005年6月
今読み返すと妙に青臭い感じのする文章だが、演劇を本格的に見始めて、まだ半年しかたっていなかったという事情をご了解いただきたい。まだこの頃は、少年王者舘とク・ナウカしか比較の対象として持ち出せる劇団がいなかったのだ。
だがそんな乏しい知識しかない割には、映画評の型と常套フレーズをそのまま流用することで、一応そつのない文章に仕上がっているところが、我ながら妙に小賢しい。
特に優れた文章ではないので収録はやめようかと思ったのだが、自分のレビューの癖と限界が非常によく現れているため、反面教師のような意味合いで、あえて収録する事にした。この程度のそつなくまとめたレビューは寝ていても書ける。ここに何か一つでも新しいものを加えるよう努力しないとね。

(2003年10月初出)

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