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05/19/2005

【映画】『シービスケット』まるでプロジェクトX

昨年アメリカで公開されるや絶賛を受け、かなり早い時期からアカデミー賞ノミネート間違いなしと言われていた話題作。大恐慌時代のアメリカを舞台に、シービスケットという競走馬と、それに関わる3人の男たち(騎手/調教師/馬主)の姿を描いた物語だ。

3人の中でも、物語の中心となるのは騎手レッド(トビー・マグワイア)で、共に怪我を負ったシービスケットとレッドが奇跡の復活を遂げる物語が、全編最大のクライマックスとなっている。そこで描かれるのは、「少しくらいの怪我をしたからとっいって、命あるものを殺める必要はない」「誰にでも負けはある。そこで諦めるか、もう一度戦いを挑むかだ」という台詞そのままの、敗者復活の物語だ。

確かに優れた映画だ。とにかく技術的によく出来ている。中でも撮影は驚異的と言っていい。レースのシーンなど、どうやって撮ったんだ?と言いたくなる迫力を持った絵が続出。レース以外のシーンでも、豊かで柔らかい光に包まれた絵作りを堪能出来る。ランディ・ニューマンの音楽も素晴らしい。
調教師役のクリス・クーパーが、演技とは思えぬ自然さで見る者を惹きつける。だがそれを圧倒して余りあるのが、シービスケット役の馬の演技だ。どうしたら、馬にあそこまでの演技が出来るのか? もしくは馬が演技をしているように見せられるのか? それこそが本作の最大の魅力であり、驚異でもある。


そのような点だけでも、十分に見る価値のある作品だ。
だが僕自身が強い感動を受けたかといえば、「それほどでも…」と言わざるをえない。

早い話が「感動のドラマ」として、あまりにも真っ当すぎ、予想を裏切るような展開や、ドラマのコクを深める陰影が希薄すぎるのだ。「感動のドラマ」としてあまりにも漂白されすぎ。友人の言葉を拝借させてもらうと、まさしく「『プロジェクトX』みたいな乗り」なのだ(笑)。

あまり深く考えずに見ていれば、クライマックスの敗者復活にも感動出来るだろう。しかし冷静に考えれば、これは極めて希な幸福に恵まれた馬と人間の、特殊な物語に過ぎないことがわかるはずだ。あのような状況下で無理をしてレースに出れば、確率的には馬か騎手のどちらか、あるいは両方が、今度こそ再起不能の重症を負うのが普通だろう。そのような目にあった人々は、山ほどいたはずだ。
レッドとシービスケットが、再起不能になるどころか見事ビッグレースで優勝してしまうのは紛れもない「奇跡」である。それは奇跡であるが故にドラマチックであるが、同時に普遍性を欠いた特殊な物語とならざるをえない。せめて最後に優勝などせず、ビリでゴールインするが、その不屈の精神に誰もが惜しみない拍手を送る…というような展開であれば、まだ話はわかるのだが。実話ベースだから、そうもいかないのだろうけど。

感動的なドラマの要素を純粋抽出したような作品のあり方は、『ファインディング・ニモ』に非常によく似ていると思う。しかし『ファインディング・ニモ』の方が、ストーリーテリングの手法が桁違いに磨き抜かれており、「愛と勇気を持って努力すればどんな夢も叶う」というおとぎ話をおとぎ話と思わせない、強靱なリアリティを生み出している。それに比べると『シービスケット』は、長い上映時間を掛けた割には、定型的な感動ドラマの枠を打ち破ってはいない。

とは言え、決してつまらない映画ではないし、再三述べているように技術的な面では空恐ろしいほどの映像を見ることが出来る。見て損はない映画だ。ただし『ミスティック・リバー』を見た後でいい。


(2004年1月初出)

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