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05/06/2005

【映画】『皆月』短評

まいった。不覚にもラストで落涙してしまった…

多くの人が言うように、奥田瑛二のダメ男ぶりは堂に入りすぎ。これってもしや演技ではなく地なのでは?(笑) この人、確か15年ほど前には「抱かれたい男No.1」みたいな位置にいたはずなのに、よくぞここまで平然と汚れ役を演じきれるものだ。この人は本物の役者です。

北村一輝がまた最高に素晴らしい。この映画で最も「月」らしいのはやはり彼ではなかろうか。虚無の中から突然吹き出す暴力衝動、義理の兄や実の姉に対する複雑な思い。何から何まで見事だ。

そしてただ一人の「太陽」=吉本多香美が、これまた素晴らしすぎ。やたら色っぽいくせに、どこか少女のようなあどけなさを残す彼女は、この映画の由美を演じるために生まれてきたかのようだ。

ところがラスト近くの警察署の場面で、その太陽を食ってしまうほどの存在感を見せるのが荻野目慶子。好きか嫌いかと問われたら「大嫌いな女優」なのだが、個人的な好き嫌いなどとは無関係に、この女優の持つダークサイドの深さには驚嘆する他ない。やはり伊達に男一人を死に追いやっているわけではないということか。本当に恐ろしい女だ。絶対に近づきたくない。

そしてこんな社会のクズどもを主人公にして、これだけ泣かせる映画を撮れるのは望月六郎ならではの才能だ。傑作『鬼火』に比べるといささか冗長な部分も見られるが、この作品には『鬼火』にはなかった「癒し」がある。それは単にラストがハッピーエンドだからではない。この映画に出てくるクズどもは、誰もが自らの意志で自らの運命を受け入れ、最後にはその運命に満足した上で新たな人生を歩みだしているように見える。端から見ればどいつもこいつも相変わらずクズであることに変わりはない。だがクズはクズなりに自分の人生に落とし前を付けた爽やかさ、そして安らぎが誰の顔にもみなぎっている。それが泣ける。たまらなく泣ける。

描写は非常に生々しい。「リアル」ではなく「生々しい」。その生活描写も、セックスも、暴力も、全部。その点に抵抗を覚える人もいるだろう。映画に現実離れした夢やロマンしか求めない人は、この映画を見る必要はまったくない。だがアメリカン・ニュー・シネマや神代辰巳の映画が好きな人、最近なら『バッファロー'66』の妙に現実的なダササに惹かれた人や、『大阪物語』に感動した人は、何を置いても見るべきだろう。
もっとも日曜日の最終回にあえてこの映画を見に来ているのは、ほとんどそんな人たちばかり(笑)。我と我が身を見るようで非常に何と言うか…(苦笑)。今度は平日の夜に見に行きます。


(1999年11月初出/2001年1月改訂)

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