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05/27/2005

【映画】『菊次郎の夏』短評

事前の評判を聞く限り、僕がこの映画を気に入ることはまずないだろうと思っていたのだが、その予想は、良い方向に大外れだった。

この映画がユニークなのは、菊次郎と正男が「大人と子供」として関係を深めていくのではなく、「同じ傷を背負った子供同士」としてひと夏の思い出を共有していく点だ。(正男の母と同じように)自分を見捨てた母親を老人ホームに訪ねた後、吹っ切れたように菊次郎が子供にかえっていく様は感動的ですらある。

一見ロードムービーの体裁を備えた作品だが、ほとんどのロードムービーが、旅の途中における出会いや成長をメインストーリーとしているのに対し、この映画は旅が終わったところから最高の物語が始まる。菊次郎と正男が旅の末に発見したものは、否定しようのない悲しい現実だった。旅することをやめた彼らは、誰も来ない、見捨てられたような土地にひとときの楽園を作り、そこで心の痛みを癒していく。その夏休みは、楽しければ楽しいほどに切なく、馬鹿馬鹿しければ馬鹿馬鹿しいほどに愛しい。

それにしても『大阪物語』に続いて、またもこんなに切ない「夏休みの映画」を見ることになろうとは… 北野武と市川準の間に作家としての不思議な共鳴現象があることは、以前から一部で囁かれていたが、この2本も二人で示し合わせて作ったかのようだ。

しかしこれって絶対にカンヌで賞を取るタイプの映画じゃないな(笑)。


(1999年7月初出/2001年1月改訂)


【注】本作はカンヌ映画祭に出品され、パルムドールの有力候補に目
   されていた。前年『HANA-BI』でヴェネツィアを制していた北野
   だけに、日本のマスコミは連日の大報道。結果的には無冠に終
   わったものの、その大騒ぎぶりはたいへんなものだった。なお
   その年パルムドールを制したのはベルギー映画の『ロゼッタ』。

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» 1999年6月5日(土) 「フレンチ・カンカン」「菊次郎の夏」 [大いなる遡行(アスランの映画クロニクル)]
 「奇蹟の輝き」の初日をみようと有楽町に出たが10分遅れであきらめる。 それなら「鉄道員(ぽっぽや)」に変更と足を運んだが舞台挨拶で満員の札止め。入場制限をしていて入れない。  恐るべし!広末涼子。  どうしようかと悩んだが良い映画を朝からやっていた。  有楽町..... [Read More]

Tracked on 06/08/2005 00:53

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