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05/12/2005

【音楽】phat 解散ライヴ 2003.3.6

2003年3月6日(木) クラブクアトロ


知らない人にphat(ファット)というバンドを説明するのはなかなか難しい。

普通はジャズの範疇で語られるし、最新アルバム『tayutaf』に至ってはブルーノートレーベルからの発売だが、オーソドックスなジャズにはほど遠い。そのリズムやクールな肌触りは、むしろクラブミュージックやテクノ、ヒップホップなどに近いものだ。それでいて普通のクラブミュージックとは一線を画するインプロヴィゼーション演奏があるし、リズムも生楽器ならではのグルーヴ感を生み出している。ニルス・ポッター・モルヴェルなどに代表される、いわゆるフューチャー・ジャズの一種と言って間違いないのだが、そのレッテルでもどこかはみ出す部分がある。
僕が音的に一番近い印象を抱くのは、フリーソウルの仕掛け人、二見裕志のユニットWorld Famousだが、そのWorld Famous自体、どこに分類しても落ち着かない不思議な音楽ユニットなので、それに似ていると言ってもまるで禅問答のようなものだ。

だがそんな捕らえどころの無さにこそ、phatの大きな魅力がある。ジャズ的な部分の居心地の良さと非ジャズ的な部分の居心地の悪さが、絶えずせめぎ合っている様が、まるで痒い部分を掻くような独特の気持ちよさになっているのだ。

ただ、ここでphatの説明をしても、あまり意味がないかもしれない。なぜなら藤原大輔(sax)/鳥越啓介(b)/沼直也(ds)3人編成によるphatは、このライヴをもって解散するからだ。初めて見るライヴが解散ライヴ…う〜ん、ルースターズ以来かも。今後phatは藤原による不定形のユニットとして継続していくようだが、何にせよ今のphatとはかなり違ったものになるだろう。

今回のライヴには、この3人だけでなく勝井祐二(vln)、鬼怒無月(g)、福田重男(p)、辻コースケ(per)の4人がゲスト出演する。今日のお目当ての半分は最初の2人だ。勝井祐二を見るのはUA、ボンデージフルーツに続いて今年3回目、鬼怒無月はCOIL、ボンデージフルーツ、梅津和時 KIKI BANDに続いて今年4回目、今週2回目(笑)だ。だが今の日本で、最も熱くクリエイティヴな音楽を作り出している連中なのだから、彼らの動きは常に要チェックだ。勝井祐二、鬼怒無月、それに芳垣安洋(ds)、早川岳晴(b)といった人たちが出ているライヴは、とりあえず見て損することはない。


さて、久し振りに来たクラブクアトロ。昔は本当によく来たものだが、ON AIRやSHIBUYA AX、赤坂BLITZ、新宿リキッドルームなど、目的や規模がだぶるライヴハウスがたくさん出来たせいで面白いライヴが分散し、最近はすっかり足が遠のいていた。確か最後に来たのは2001年5月のfra-foaだ。久し振りに入ってみると、この適度な狭さがやはり心地よい。
25分前に着いたら、まだガラガラ。何と初めてカウンター席に座れた。こんなに人気がないのかと驚いたのだが、開演前にはしっかりと満員になった。演奏が始まっても、フロアの観客が前に押し寄せるお馴染みの光景は見られなかったし、みんな普通のライヴという感覚ではなく、クラブのイベントに来るような感覚で来ているのだろう。客層は20歳前後のクラブ系人種がほとんど。新宿ピットインにいるようなジャズオヤジはほとんど見かけない(あ、これって天に向かって唾を吐くような言葉?)。やはり一般的にはクラブ系の音楽として受けている事がよくわかる。入場料も前売りで3150円、当日でも3500円だから、若い連中も気軽に気安いのだろう。しかし最近はライヴのチケット代までがデフレ気味。喜ぶべきか悲しむべきか…

19時5分過ぎに開演。左側の太い柱のせいで、ドラムがよく見えないが、まあ良しとしよう。開演前から3時間以上立ちっぱなしよりはましだ。

ファーストセットは『tayutaf』の曲が中心。藤原は、サックスの他にエレクトロニクス全般も扱っていて忙しい。と言うより、そちらをいじっている時間の方が多く、サックスをあまり吹かない。ライヴではもっとバリバリ吹きまくってくれるかと思ったので、ちょいと欲求不満。それよりも凄いのは、鳥越のベースだ。アコースティックベースなのだが、ほとんどの曲でエフェクターを使い、電気的に加工された音になっている。特に驚いたのは2曲目にやった「水平対向」。あのエンジンが唸るような音は、ベースで出していたのか! 他の曲でも思いきりブーストした、それでいてエレキベースとは違うアコースティックベースならではの極太サウンドを聞かせ、抜きんでた存在感を放っている。
やがて1曲につき1人ずつゲストが参加していくようになる。こういう音楽なので、パーカッションが加わると、フロアの乗りも格段に違うが、それ以上に凄かったのは鬼怒無月の参加した曲。いつも通りジミヘン〜ジェフ・ベック系のソリッドなギターを決めていく鬼怒。しかしphatの3人も、それに圧倒されることなく、むしろ鬼怒のギターと一体になってファンク的なサウンドで盛り上げていく。これは凄い。ファーストセットでは、この曲がベストだった。鬼怒無月の素晴らしいところは、あれだけのウルトラテクニックを持ちながら、決して「俺が俺が」にならず、あくまでも音楽を第一に考え、どんなスタイルであっても、音楽そのものを盛り立てるギターを弾ける事だ。

20分ほどの休憩を挟んでセカンドセット。こちらはほとんどが知らない曲だった。多分インデーィズ時代の曲か、セッション用に用意された新曲だろう。1曲目はジャズ色の濃いナンバーで、3人だけの演奏としてはベストだった。藤原もサックスを吹きまくる。ただこの人のサックスは、テクニック的には十分上手いのだが、一発の音で聴く者を魅了してしまう色気に欠け、どこかひ弱な感じがするのはCDでの印象と変わらない。それはつい3日前に聴いたばかりの梅津和時と比較すれば一目瞭然だ。まあキャリア20数年のベテランと比べたのでは可哀想かもしれないが、ともあれサックスプレーヤーとしてはまだまだ成長の余地があるのは確かだ。もっともこのphatのようなバンドを結成しているところを見ると、彼がそういう方向に成長したがっているかどうかに疑問があるのだが。
2曲目からは先ほどのゲスト4人が加わった「phatビッグバンド」による演奏。セカンドセットでは、鬼怒はバッキングに徹し、あまり目立たなかったが、よく聴けば彼のギターが大きなグルーヴを作り出していることがわかるはずだ。表で活躍したのは勝井祐二のヴァイオリン。サックスよりも、ベースとヴァイオリンのバトルになっているような部分がところどころにあって実に楽しかった。それにしても勝井、鬼怒というボンデージフルーツの中心メンバー2人が参加していながら、決してボンテージの音楽にならないのは、phatの音楽性の強靱さと見るべきか、勝井&鬼怒の自制心と見るべきか…
ともあれセカンドセットの演奏は、ファーストセットに倍する強力なグルーヴを生み出し、フロアも大いに盛り上がっていた。生演奏よりもエレクトロニクスによる音作りに追われていたようなファーストセットには疑問もあったのだが、セカンドセットは「ああ、やはりライヴではこういうことをやってくれるわけか」と、音の洪水を素直に楽しむ事が出来た。フロアの真ん中に行って、皆と一緒に体を揺らせたかったが、人がぎっしりで移動が難しそうだったので、仕方なく椅子に座ったまま体を揺らせていた。

アンコールは2回。1回目は3人だけの演奏だったが、イマイチ不完全燃焼気味。ショボショボとした終わり方も「?」だったが、2度目のアンコールはパーカッションが加わり、グッと乗りが良くなった。しかも曲はスライ&ザ・ファミリー・ストーンの「サンキュー」。最後に藤原があのフレーズを吹いて終わった時には、心地よい感動を味わうことができた。

終演は21時49分頃。途中休憩を含めて2時間35分の長いライヴだったが、後半になるほど盛り上がっていき、大いに満足できる内容だった。それだけにこの編成によるphatのライヴがもう見られないのは残念だ。未完成な部分も非常に多いが、とても刺激的で未来を感じさせる音楽の萌芽があちこちに見えていたのに。とりあえず今後のメンバーの活動に注目することにしよう。


(2003年3月初出)

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