【音楽】fra-foa 解散ライヴ 2005.5.14 クラブクアトロ
fra-foa ラストライヴ 「スミワタル空、ソノムコウニ・・・」
2005年5月14日(土) クラブクアトロ
ついにこの日が来てしまった。
fra-foaのラストライヴだ。
解散は金曜日に突然ホームページで発表された。
ごくささやかな、うっかりすれば見逃してしまいそうな告知。
そんなさり気なさもこのバンドらしいが、やはり悲しかった。
残念とか、ショックとか言うよりも、ただ悲しかった。
もう二度とfra-foaのライヴは見る事が出来ないのだ。
ただ無性に悲しかった。
その告知を読んでから、心ここにあらず。金曜は何とか普通に過ごしたが、土曜は朝から何も手が着かない状態。本来予定していたことは何も出来なかった。
今回のライヴ、どういうわけかチケットは完売で当日券も出なかったようだ。最近CDも出しておらず、バンドとしては実質開店休業状態だった事を思うと、なぜ急にそんなに人が集まったのか不思議な気もする。いつ解散ライヴになるかわからない状態が続いていたから、以前からライヴに足を運んでいた人なら、一回たりとも見逃す事は出来ないわけだが、それだけが理由でもないだろう。やはり皆何かを感じていたのだろうか?
もっとも解散の告知はHP上だけで、会場には何一つ明示されていなかった。何も知らない人もかなりいるはずだ。周りの会話にも、不自然なくらい「解散」という言葉は出てこなかった。みんな一縷の望みを抱いていたのだろう。ひょっとしたら、解散を撤回してくれるのではないか。今日のライヴが盛り上がれば、もう一度バンドとしてやっていく気になってくれるのではないかと…
出来れば一番前の方で見たかったが、前でもみくちゃになるのは、TOWER RECORDSのインストアライヴと下北沢のCLUB 251で経験済み。臨場感はあるが、音楽を真剣に聴くという点からは問題が多い。今回はフロアの後ろの方、ミキサー卓の前あたりで見る事にした。
*
演奏は18時10分に始まった。
1曲目は予想通り「真昼の秘密」。ファーストアルバム『宙の淵』の冒頭を飾る曲。彼らはやはり今日fra-foaの全てを吐き出すつもりだ。
2曲目はファーストの3曲目「夜と朝のすきまに」。昨年1月の下北沢とは、やはり気合いが違う。彼らも1曲1曲「これが最後だ」というつもりで演奏しているのだろう。いつにもまして低音のグルーヴが凄い。グランジ直系のこの重々しいグルーヴこそfra-foaの原点であることを思い知らされる。初めて『宙の淵』を聴いた時の感動を思い出す。
最初のMCで高橋が「今日はたくさん曲をやるから、覚悟しとけよ」と言う。その言葉を聞いた時、やはりこれが解散ライヴであることは間違いないと思った。
3曲目、4曲目はセカンド『13 leaves』から「edge of life」「blind star」とアップテンポのナンバー2連発だ。5曲目は実に久々の「daisy-chainsaw」。やはりこの曲はライヴの方が桁違いにいい。アルバム未収録曲まで演奏し尽くすつもりか。これは本気だな。
しかしこの辺りで僕は奇妙な違和感を覚え始めた。
やっているのは純度100%のfra-foaナンバー。
演奏はかつてないほど安定していてダイナミックなサウンドに磨きがかかっている。特に高橋のギターの上達ぶりには驚かされる。
何もかもが昔と同じように見えるが、大切な何かが微妙に失われている。
むしろあまりにも昔と同じであるが故に、その微妙な違いが心に引っかかる。
その原因はすぐにわかった。
ちさ子だ。
確かにちさ子はいつも通りの絶唱を聞かせている。
だがそこにはかつてのような「今この歌を歌わなければ私は死んでしまう。今この歌を歌うことで死んでも、私に悔いはない」と言わんばかりの気迫はなかった。
自分の魂を削って歌にしているかのような、あの青白い炎のゆらめきを見る事はできなかった。
とても悲しくなった。
かつての三上ちさ子にとって、fra-foaで歌う事は人生の全てだったのだろう。
だが今のちさ子にとって、もはやfra-foaは心の拠り所ではなくなっている。
確かにfra-foaは終わったのだと実感した瞬間だった。
とても悲しくなった。
その後「light of sorrow」「green day」「消えない夜に」「lily」と『13 leaves』収録のバラードナンバーが続く。どれも素晴らしい。やはり今のちさ子にとっては、こういった歌の方が自分の思いに近いのだろう。
MCの後に始まったのは何と「オブラートで包んだ水みたいな君に」。アルバム未収録の大好きな曲。タワーレコードのインストアライヴで、この曲を聴いた時の感動は今も忘れられない。今回も「ここに いるからあああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」の延ばしを限界までやってくれた。本当にいい歌だ。「crystal life」をはさんで登場したのは何と「三日月の孤独」。初期fra-foaの痛々しいほどに透き通った感性を象徴する曲。アルバム未収録ナンバーの名曲も大判振る舞いだ。
この辺りのMCで、普段はまったく話さないベースの平塚とドラムスの佐々木にも話が向けられる。「普段通りにやるってのが難しいんだよね…」とポツンと漏らす平塚。
続いて「煌め逝くもの」から「プラスチックルームと雨の庭」へ。歌詞の素晴らしさについて言えば、おそらくこの2曲がfra-foaの最高傑作だろう。曲としても5本の指に入る名曲だ。
だがちさ子の歌に、昔のような血のにじむリアリティは望めない。むしろ今日のちさ子は、かつてないほどのプロ意識で、昔の三上ちさ子を模倣するかのように歌っている。
今日初めてfra-foaのライヴを見た人なら、これがいつものちさ子だと思うだろう。だがそれは違う。かつてのちさ子は、本当にいつステージで死んでもいいという気で歌っていた。今のちさ子は決してそう思ってはいないはずだ。『13 leaves』の曲ではあまり気にならないが、『宙の淵』の曲になると、どうしてもその差にひっかかってしまう。
その後のブレイクで、MCをしようとしたちさ子の足がつる。「ちょっとつないでおいて」というちさ子に対し、他のメンバーはまったく何のフォローもしない。奇妙な沈黙。高橋が「俺らも自分の事だけでいっぱいっぱいだから…」と言っていたが、そういう問題だろうか? ちさ子と他の3人のメンバーの関係が冷え切っていることを感じずにはいられない光景だった。ようやく足のつりは直ったようだが、ステージに座りこんだまま、ちさ子は「ひぐらし」を歌い始める。童謡のように優しいナンバーに思わずしんみり。この曲も二度とライヴで聴く事はないだろうと思うと、胸が詰まる。
そして最後のクライマックスが訪れる。
誰もが待ち望んでいた「澄み渡る空、その向こうに僕が見たもの。」。やはりそこで歌っているのは、かつてのちさ子ではない。だがさすがに終盤を迎えて、明らかに彼女のテンションが高まってきたのがわかる。
続く「君は笑う、そして静かに眠る。」、本編ラストの「月と砂漠」では、ちさ子の息が上がってしまい、声が出なくなる。いつもの光景ではあるが、かつてないほどの曲数をやった後だけに、今回は特に長かった。そんなことは我関せずとばかりに演奏を続ける男3人。そこにかいま見える、埋めようのない断絶… それでも最後の力を振り絞るちさ子。黙々と完璧な演奏をこなしていく男たち…
だがその時僕の心には別の感動がこみ上げていた。
ここで「月と砂漠」が来るという事は、アンコールは…そう思うだけで胸がいっぱいになったのだ。
本編の終了。そう、やはり次に演奏される曲はあの2曲しかないだろう。
だが待て。その前にまだ彼らは解散について何も言っていない。
ひょっとするとこのまま何も言わないのだろうか?
あるいは解散を撤回するとか。
いや、それがないことは、今までの演奏で十分にわかったじゃないか…
メンバーの再登場。「ずいぶん久しぶりのライヴになったわけですが…」というような話を高橋が始めると、会場から声がかかる。
「もっとツアーをして」
「大阪にも来て」
「仙台にも」
「アルバムは?」
今でもわからない。
彼女たちは、まったく何も知らずに文字通りの意味で声をかけていたのだろうか?
それとも「解散なんて嘘でしょ? まだこれからもfra-foaを続けてくれるんでしょ?」そんな願いを込めて、あえて声をかけたのだろうか?
高橋が言いにくそうに話を切り出す。
「実はこのライヴでfra-foaとしての活動をストップする事になりました」。
会場から静かな溜息とかすかな悲鳴が漏れる。
だが思ったよりも静かだ。やはりほとんどの人は事前に知っていたのだろう。あるいは直接昨日の発表を知らなくても、この2年以上、いつ解散してもおかしくない状況だったのだから、皆覚悟は出来ていたのだろう。
「これからもそれぞれ音楽活動を続けていくから、悲しいけど悲しくない事なんだ」
馬鹿言うんじゃない。
悲しいに決まってるだろ。
この素晴らしいバンドが解散すること。
数々の素晴らしいナンバーが、fra-foaの演奏ではもう二度と聴けなくなること。
そして何よりも、ちさ子の心が明らかにfra-foaから離れてしまったこと。
もうその溝は決して埋められないだろうと実感できたこと。
何もかも決して元には戻らない。
だが待て。
まだ終わってはいない。
そう、あと2曲残っているはずだ。
まるで僕の心の声をそのまま繰り返すかのように高橋が言った。
「あと2曲、あと2曲大切な曲があるんだ」
そうとも。あと2曲、fra-foa最高最大の名曲が残っている。
「青白い月」が始まった。
もし『宙の淵』にこの特大の名曲が入っていなかったら、僕がここまでfra-foaに強い思い入れを抱く事は決してなかっただろう。
何から何まで心を揺さぶらずにはおかないfra-foa最高の名曲。この一曲があるだけでもfra-foaの名は日本のロック史に永遠に刻まれるべきなのだ。
やはりちさ子の歌はかつてと違う。だがそこには、以前にはなかった穏やかさと美しさがあった。愛する者の死の悲しみをのたうち回るように叫ぶのではない。その悲しみを受け止めながらも生を肯定する、より大きな感情が感じられた。それは今までにない不思議な感動を帯びた「青白い月」だった。
そしてついに最後の曲。
もちろん「小さなひかり。」だ。
「青白い月」と双璧を為すfra-foa最高の名曲。
「青白い月」が死の悲しみの歌なら、「小さなひかり。」は生の喜びの歌。
この組み合わせほどfra-foaの全てを象徴するものはない。
この2曲がアンコールで続けて演奏されるのは、2001年9月のSHIBUYA-AX以来だ。
だが解散ライヴなら、きっとこの2曲で締めてくれるに違いない、ぜひそうして欲しいと思っていた。その思いが、こんなにも素直に実現しようとは。
これで終われる…そう思った。
驚くほど完璧な演奏に乗り、ちさ子は慈しむようにfra-foa最後の曲を歌いきった。
何事もなかったように、あっさりとステージを去っていく4人。
なかかな立ち去ろうとしない観客。
もちろんメンバーがステージに戻ってくる事はなかった。
終演は20時20分。全部で2時間10分という、fra-foaのライヴとしては最初で最後の長丁場だった。
*
大好きな「出さない手紙」が落とされたのは気に入らないが、fra-foaのほぼ全ての曲を披露した、ラストライヴにふさわしい構成だった。ほとんどの観客は満足した事だろう。
確かにメンバーの演奏力は大きく向上していたし、ちさ子のヴォーカルもほぼ安定していた。
だが実際には、fra-foaという素晴らしいバンドは、とっくの昔に終わっていたのだ。
2003年1月のティアラこうとう。あれが実質的にfra-foaというバンドの最後のライヴだったのだ。
2004年1月の下北沢はやはり解散ライヴのつもりだったのだろう。だがあの時点で、すでにバンドとしての実体は失われていた。そのせいもあってか、演奏はかつてないほどひどいものだった。「こんなんじゃ終われない」というちさ子の叫びは、やはり「こんなひどいライヴでは解散するにもしきれない」という意味だったのだろう。その落とし前を今回のクアトロで付けたわけだ。
だが落とし前はしょせん落とし前に過ぎない。
ティアラこうとうでの予想を大きく覆す素晴らしいライヴ、あれがfra-foaというバンドの最後の輝きだったのだ。
だとすれば今さら形式的に解散を表明したからと言って、悲しむ事はないのかもしれない。あまり情緒的になることなく、むしろあっさりした印象のライヴで幕を閉じたことからして、メンバーもそんな気持ちだったのだろう。
もうfra-foaというバンドは存在しない。
だが僕の手元には、2枚の素晴らしいアルバムと、シングルだけに収録された8つの名曲がある。
そして計9回のライヴの思い出も残されている。
僕があと何年生きられるかわからない。
だが残された人生の中で、彼らの音楽はこれからも大切な宝物として輝き続ける事だろう。
素晴らしい音楽をありがとう。
君たちに出会えて、本当に良かった。
*
セットリスト
1.真昼の秘密
2.夜とあさのすきまに
(MC)
3.edge of life
4.blind star
5.daisy-chainsaw
(MC)
6.light of sorrow
7.green day
8.消えない夜に
9.lily
(MC)
10.オブラートで包んだ水みたいな君に
11.crystal life
12.三日月の孤独
(MC)
13.煌め逝くもの
14.プラスチックルームと雨の庭
15.踊る少年
(MC)
16.ひぐらし
(MC)
17.澄み渡る空、その向こうに僕が見たもの。
18.君は笑う、そして静かに眠る。
19.月と砂漠
アンコール
(MC)
20.青白い月
21.小さなひかり。
*
fra-foa全観賞ライヴリスト覚え書き
2001年5月19日(土) クラブクアトロ
2001年9月23日(日) SHIBUYA-AX
2002年2月2日(土) 赤坂BLITZ
2002年6月12日(水) ON AIR WEST
2002年9月23日(月) タワーレコード渋谷店 STAGE ONE
2002年10月5日(土) 赤坂BLITZ
2003年1月23日(木) ティアラこうとう
2004年1月25日(日) 下北沢 CLUB251
2005年5月14日(土) クラブクアトロ
(初出2005年5月)
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Comments
TBありがとうございます&TBいたします。
しっかりと観た!という感じの、
素晴らしいレポに感動しました。
私は前で観てしまったので、記憶が曖昧のまま記事を書いてしまって・・・。
>「青白い月」が死の悲しみの歌なら、「小さなひかり。」は生の喜びの歌。
という部分に、今更ながら
「ああ、そうか・・・!」と思ってしまいました。
どちらも涙が出るほどの名曲だと思っているので、最後にやってくれて嬉しかったです。
>素晴らしい音楽をありがとう。
本当に、そう伝えたいです。そう思います。
Posted by: ふるふる | 06/01/2005 00:04
初めまして。TBありがとうございました。
ライブを見に行かないので、
彼女たちの空気に直接は触れたことがないのですが、
はまったキッカケは、青白い月のライブ状況を、テレビで観たときです。
やはり、fra-foaというバンド、
突き詰めると、あのときの、
淵のギリギリを生きていたような三上ちさこという人間であったことが、
最大の強みにして、一番のネックとなってしまったことが、
ぼのぼのさんのレビューからも読み取れました。
このような音楽は、そう簡単に世に出てこないので、
1stアルバム、宙の淵は、いつまでも聴ける名盤になりそうです。
Posted by: 青葉群青 | 06/02/2005 18:05
トラックバックして頂き、ありがとうございます!
ぼのぼのさんのレポを拝見させていただきましたが、fra-foaに対する愛情がひしひしと伝わってきて、痛かったです。
あの、三上ちさ子が魂の底から吐き出す叫びを忘れることは、到底無理でしょうね・・・。
変化に着いて行けずに昔の影を追い求めて聴かなければいけなくなるぐらいなら、封印してくれて良かったとあたしは思います。
Posted by: ウサギ | 06/05/2005 03:13
ぼのぼのさんへ
私もぼのぼのさんと全く同じライブを経験してきました(ティアラは行けませんでしたが・・)。クワトロ、ブリッツ、AX・・都内のかなり大きな箱でやってきたバンドであるだけでなく、日本的なオルタナの先駆けだったんでしょうか・・?
「13leaves」以降は、そんな影もどんどん薄れていったという印象です。
今回、fra-foaの解散は個人的に本当に残念であるだけでなく、もっと商業的にもヒットする要素があったであろうバンドだけに悔やまれるとこがあります、近頃の若いバンド達よりよっぽど良い物を持っていたメンバーだったのにな。彼らのソロは聞いてますか?私はまだ聞いてませんっていうか、なんとなく聞けない・・。
Posted by: ロック | 06/10/2005 00:37