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05/31/2005

【音楽】カエターノ・ヴェローゾ ライヴ 2005.5.25

カエターノ・ヴェローゾ 2005年5月25日(水) 東京国際フォーラム ホールA


ブラジル音楽界の巨人カエターノ・ヴェローゾ。日本でも熱心なファンを持つアーティストだが、実を言うと僕が持っているアルバムは『リーヴロ』『ノイチス・ド・ノルチ』『ア・フォーリン・サウンド』そして2枚組のベストの『アントロジア』だけだ。決して誰もが知っているわけではなく、少数の非常に熱心なファンに支えられている人だけに、自分ごときが足を運んではいけないのでは?と気後れする部分もある。はっきり言って、いわゆるラテン音楽と言われるものは、どちらかと言えば苦手な方だ。あのリズムが何となく自分の生理に合わないのだ。当然本格的なライヴにも行った事はない。
だが最初に聞いた『リーヴロ』は大好きなアルバムだし、映画『トーク・トゥ・ハー』における「Cucurrucuru Paloma」の演奏シーンにノックアウトされた以上、とりあえず一度は見ておきたいと思った。もっとも東京では、国際フォーラム ホールAで2回、芸術劇場で1回の公演だから、ロックの大スターとほとんど変わらない。ポルトガル語の歌を一緒に歌ってしまうようなディープなファンだけで、これほどのキャパシティが埋まるとは思えないから、実際には自分と同レヴェルの薄いファンも大勢来ている事だろう。難しく考える必要はないのかもしれない。

ところが会場に着いて少々びびった。観客の多くがそれぞれ顔見知りらしく、挨拶をしたり、「あの人があそこにいた」などという話をしているのだ。それどころか、初日はどうだった、昨日はどうだっという話までしている。皆東京公演を何日も見ているのだ。筋金入りのカエターノファンの濃さに圧倒され、ますます自分が場違いなところにいるような気分を覚えた。


だが、そんな居心地の悪さなど、ライヴが始まった途端すっかり消え去ってしまった。

初めて見るカエターノ・ヴェローゾのライヴは、それほど素晴らしいものだったのだ。

「芳醇」という言葉がこれほど似合うライヴは初めてかもしれない。


特に素晴らしかった点は次の3つだ。

まず全ての曲においてCDよりもライヴの方が良かった。
演奏曲に関しては、最新アルバム『ア・フォーリン・サウンド』からの英語曲が多かったせいもあるが、3分の2以上は手持ちのCDで事前にオリジナルを耳にしていた曲だった。これら全てが、スタジオ版よりも歌の本質が明確になり、より豊かで繊細なニュアンスをまとっていたのだ。それまで写真として見ていたものが、突然立体化して手で触れる物体と化したような印象だ。良いライヴには必ずそういう瞬間があるが、今回は全ての曲がそうだった。これはさすがに初めての経験だ。特に「Haiti」や「Detached」など、CDで聴いた時には何をやっているのかイマイチよくわからなかった曲が、このライヴでは「あ、そうか。こういう歌だったのか」とすんなり耳に入ってきた。これには本当に驚かされた。
強いて言うなら『リーヴロ』収録の曲は、あの繊細で複雑なリズムのタペストリーが少し簡素になってしまったのが物足りない気がしたが、その分歌のニュアンスは遙かにふくよかになっていたため、全体的にはスタジオ版と甲乙付けがたいレヴェルに達していた。

第二に、聴いた事のない曲がすべて文句なしに良かった。ベストヒット的な選曲だったという理由もあろうが、全25曲も歌って、つまらない曲が1曲もないというのは驚嘆に値する。カエターノというミュージシャンの奥深さに鳥肌が立つばかりだ。
第三は言うまでもない。「声」だ。必要最小限の音数で豊かなニュアンスを伝えるバンドの演奏も素晴らしい。だが国際フォーラムのあのだだっ広い空間を支配していたのは、紛れもなくカエターノの「声」だ。今年63歳とは思えない色気と透明感に溢れた声。サム・クックなどと同じように、彼もまた神から与えられし声の持ち主なのだ。ビリー・ホリデイは「電話帳を読み上げても人を泣かせる事が出来るだろう」と称えられた。カエターノも、インターネットのURLを読み上げるだけで人を泣かせることができるに違いない。


どれもこれもせいぜい4〜5分しかない短い曲ばかりなのに、とてもそうとは思えない豊かな時間が流れてゆく。普段聴いているロックやジャズとはまったく違う、不思議な時間感覚。あらゆる点で今までに経験した事のないライヴだ。


すでに述べたように、一曲たりともつまらない曲はなかったが、その中でもとりわけ魂を鷲づかみにされたのは、「Cucurrucuru Paloma」「O Estrangeiro」「Love Me Tender」「Manha de Carnaval」だ。

映画『トーク・トゥ・ハー』の中で歌われた「Cucurrucuru Paloma」。あの映画がなかったら僕はこの場にいなかったかもしれないと思うと、ペドロ・アルモドバルに深い感謝の念が沸き起こる。映画での演奏と違い、時には声を張り上げて、よりドラマチックに歌い上げるカエターノ。まさに陶酔状態の数分間。あの時間が永遠に続いてくれれば良かったのに…
レゲエのリズムにアレンジされた「O Estrangeiro」は、スタジオ盤を遙かに超える艶っぽさで、本編のラストを締めくくるにふさわしい歌と演奏。
そしてアンコール1曲目の「Love Me Tender」。エルヴィスの原曲からして好きだし、いろいろな人のカヴァーも聴いてきたが、それでもこの日のカエターノを凌ぐ歌はどこにもない。
それは映画『黒いオルフェ』のテーマ曲「Manha de Carnaval」も同様だ。子どもの頃から大好きな曲だったが、ここまで美しい「Manha de Carnaval」は未だかつて聴いた事がない。


「Love Me Tender」「Manha de Carnaval」が続けて歌われた、アンコール前半の10分弱…あれを「至福」と呼ばずして何と言おう。


開演前に、連日足を運んでいる熱心なファンに驚いた件を書いたが、実はそんなものはまったく驚くに値しなかった。
僕も初日にこれを見たとしたら、最低でももう一日、当日券で再び見に来ていたに違いないからだ。


カエターノ・ヴェローゾという名前が、なぜ一部の音楽ファンの間で、あれほど熱く語られていたのか、このライヴを見てようやくわかった。


できるだけ早い内に、また来日して欲しいものだ。

その時は僕も東京公演を全て見に行く事になるだろう。


セットリスト

1. Minha Voz,Minha Vida
2. Baby〜 Diana
3. So in Love
4. Come As You Are
5. Manhattan
6. Manhata
7. Diferentemente
8. Adeus Batucada
9. Brasil Pandeiro
10. O Leaozinho
11. Coracao Vagabundo
12. Trilhos Urbanos
13. Haiti
14. Desde Que O Samba E Samba
15. Forca Estranha
16. Sampa
17. Cucurrucuru Paloma
18. Love for Sale
19. Cry Me a River
20. Detached
21. O Estrangeiro
(アンコール)
22. Love Me Tender
23. Manha de Carnaval
24. Odara
25. Terra


(2005年5月初出)

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Comments

トラックバックありがとうございます.
アンコール一曲目の「Love Me Tender」は秀逸でしたよね.アンコール一曲目にこの曲をもってくる曲者ぶりも好きです.

歌もすごかったですが,遊び心が溢れつつも堅実な演奏(特にパーカッション!)もすごかったですね.いまも耳に残っていますよ.

それでは.

Posted by: ドゥースブルフ | 06/04/2005 at 11:44

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