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05/08/2005

【演劇】ク・ナウカ『マクベス』2004.11.14

ク・ナウカ『マクベス』 2004年11月14日(日) ザ・スズナリ

先日国立博物館の庭で見た『アンティゴネ』は、馬車道でのプレヴュー公演よりは格段に良くなっていたし、特に音楽が素晴らしかったものの、やはり根本的な部分で疑問の残る作品だった。
なぜラストをあんな風に変えてしまうのか? あれでは『アンティゴネ』という作品の骨格が崩れてしまう。本公演のラストは、馬車道ヴァージョンからも大きく変わっていたものの、意味不明さではどっちもどっち。いずれにせよ台詞劇ならではの単調さは克服できていなかったし、ステージとの間に池があるため、前から2列目でも役者の表情を識別するのは不可能だった。かなり好意的な意見も聞いたが、あの程度で誉めたのでは、ク・ナウカのためにもならないと思う。
ちなみに来年の1月16日(日)にNHK教育の芸術劇場で放送されるらしいので、私の意見が信じられない方は、そちらをどうぞ。もっともあの作品、テレビで見た方がかえっていいだろうと思える部分も多いのだが。


今日の会場は、ク・ナウカにしては珍しく、常設劇場である下北沢のザ・スズナリ。やはりこの辺でやってくれると、いろいろな意味でとても助かる。来年の2月にもここで『ぼくらが非情の大河をくだる時』と『山の巨人たち』を上演するらしい。ただスズナリでやってくれるのは有り難いが、期待よりも不安の方が大きい演目ではある。現代戯曲である前者は、夏に見た『友達』と同様の平凡さが懸念されるし、後者は昨年法政大学で上演した時「難解でストーリーがよくわからない」という評判だったし…どうせなら『わが友ヒットラー』の方が良かった。とは言え、これだけたくさんいろいろと見られると年間会員になった甲斐もあるというものだ(笑)。


さて『マクベス』。かなりの濃縮ヴァージョンで、時間はわずか90分弱。それでもほとんど内容をカットした印象がないのはさすがだ。まあ台詞はいかにもク・ナウカらしく、もはや言葉と言うよりも音楽のようなものになっていたので、初めて『マクベス』を見るような人は、とてもストーリーを追えないとは思うが。

何と言ってもマクベスを言動一致で演じる阿部一徳が凄い。2年ほど前に見た唐沢寿明とはえらい違いだ。阿部さんの俳優としての力量が全開になっている。凄い人だとはわかっていたが、ここまで凄かったとは。しかも旧演出では、マクベスに加えてマクベス夫人のスピーカーまでやっていたらしい。今回も一部分マクベス夫人の声を出すところがあり、それが実にうまかったので、できれば旧演出で見たかったと思ったほどだ。

問題は周りだ。マクベス以外の役をすべて女性が演じ、台詞に至ってはしばしばコーラス隊のごとく数人がかりで喋るのだが、これが「束になっても敵わない」という言葉を絵に描いたような結果となっている。そもそもマクベス夫人以外ほとんど同じ姿の女性陣は、誰がバンクォーで誰がダンカンやら、なかなか区別が付かない。そしてク・ナウカの若手〜中堅の最大の弱点であるスピーカー能力の弱さが、ここでも露呈している。もし美加理がマクベス夫人を演じたなら状況はまったく違っていただろうが、今回は阿部一徳とその他の女性陣の力量に差があり過ぎて、作品としては「阿部一徳ワンマンショー」以上のものにはなりえなかった。

もっともク・ナウカのホームページを見ると、「男らしさの幻想を振りかざすマクベス夫人は、マクベス自身の心が生んだ分身」などと書いてある。ごめんなさい、私そこら辺の演出意図は全然わかりませんでした(笑)。しかしそれを聞いて、マクベス夫人が途中で消えてしまう意味が何となく理解できた。そういう設定であれば、なるほど美加理をマクベス夫人にするわけにはいかないだろう。あえて影の薄い桜内結うをキャスティングした理由も理解は出来る。しかしそう言われても…う〜ん、何だか説得力ないなあ。


それにしてもこういうものを見てしまうと、美加理、阿部一徳、大高浩一といった人たちと、その下の中堅〜若手の間に、やはり超えるに超えられない壁がまだ厳然と存在している事実を認めないわけにはいかない。『エレクトラ』や『卒塔婆小町』で、若手の中では抜きんでたオーラを放っていた杉山夏美はともかく、このままでは確かに先行き辛いものがありそうだ。


ところでシェイクスピア劇というのは、意外と構成にアバウトなところがあって、時々「なんで?」と首を傾げたくなる展開にぶち当たることがある。その一つに数えられるのが、この『マクベス』におけるマクベス夫人の狂乱だ。元々良心の呵責に悩みつつ先王殺しを行ったマクベスならともかく、何故マクベス夫人の方が急に狂乱状態に陥り、手に付いた血が落ちないと言い出すのか? 原作戯曲であれ芝居であれ映画であれ、この変化に素直に納得がいった作品は一つもない。残念ながらこの作品も同様だ。
今では神様扱いのシェイクスピアにこんなことを言うと、怒りの声が飛んできそうだが、無闇に神格化すればいいというものでもあるまい。本物のシェイクスピアは、おそらく今で言えば売れっ子のシナリオライターみたいなもの、芸術界と言うよりは芸能界の申し子であり、劇場の都合や俳優の我が儘や予算不足など現実的な問題に振り回されながら、何とか辻褄を合わせた、いや合わせきれなかった部分もあるのではないだろうか。そんなシェイクスピア像を生き生きと描き出しただけでも、映画『恋に落ちたシェイクスピア』は傑作と呼ぶに値する。


と言うわけで、私にとってのベスト『マクベス』は、未だに黒澤明の映画『蜘蛛巣城』なのである。


(2004年11月初出/2005年4月改訂)

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