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04/02/2005

【映画】『Returner』を絶賛する

妙に評判が良かった『ジュブナイル』だが、僕の評価は決して高くない。

ストーリーは肝心な部分が子供だましの杜撰なものだし、甘酸っぱい少年期の冒険物としては子供たちの性格描写が薄っぺらい。最高の魅力と言えば、鈴木杏の壮絶な美少女ぶりに尽きるのだが、これさえも「鈴木杏が成長して緒川たまきになる(!!)」という、もはや観客に喧嘩を売っているとしか思えぬ暴挙によって、トホホ状態のまま終わりを迎えるはめになった。


そんな映画を作った山崎貴の新作『Returner』。当然さほどの期待はしていなかった。詳しい予備知識はほとんど無しで見たのだが、わずかに聞こえてくる話と言えば「いろいろな洋画SFのパクリ」「VFXが凄い」といった程度。そこから想像されるのは、VFXという高価なオモチャを弄び、『ジュブナイル』をさらに鼻持ちならない方向に発展させた、子供っぽいオタクSFだった。

そもそも日本で作られるSFやファンタジーの大部分はろくなものじゃない(実写に限った話。アニメは除く)。それらのダメ作品に見られる主な欠点には、次のようなものがある。

・ストーリー展開が子供だまし。
・演出が子供だまし。
・作っている側に「子供向け」という意識がありありで、それ故の
 衒いや、ひどい場合には作者自らが作品を小馬鹿にしているような
 ところが見られる。あるいは子供に対する気色の悪い媚びが見られる。
・世界観の構築が貧相で、現実離れしたその作品世界にまったくリアリ
 ティがない。現実離れした作品ほど、その世界が本当に存在するかの
 ようなリアリティが必須なのに(『ロード・オブ・ザ・リング』を見よ!)
・特撮がしょぼい。あまりのしょぼさに、シリアスな内容でもギャグに
 なってしまう。
・変なところで変な風に現実的な要素や下世話なキャラを出してくる
 (その極めつけは『宇宙からのメッセージ』のチンピラ)。これも
 子供や低レベルの観客に対する媚びの一種だろうか。
 
総じて言うなら

 肝心の作り手側がSF的虚構世界を信じていない
        ↓
 それによって「まあこんなものだろう」レベルの手抜きな設定、スト
 ーリー、演出、特撮などがまかり通り、その後ろめたさを誤魔化すか
 のように、余分極まりないサービス(媚び)を入れてくる
 
…と言ったところか。

もちろん全部が全部そうではない。作り手側が確固たる虚構の世界観を持ち、それを予算の許す範囲内で精一杯映像化した作品も、少数ではあるが存在する。平成『ガメラ』シリーズしかり、『ゴジラ 大怪獣総攻撃』しかり、『ゼイラム』しかり。もっと古いところでは『吸血鬼ゴケミドロ』や『マタンゴ』も素晴らしい。SFとは言いにくいが『回路』の圧倒的イマジネーション、虚構世界の建築的強度は、世界でも最高の部類に属する。
だが、それらの傑作・秀作はあくまでも少数派であり、B級作品でも一応のリアリティを備えているハリウッド映画の熟練した嘘八百ぶりに比べると劣勢は隠しようがない。


前置きが長くなった。


お題の『Returner』。

これが見る前の予想を裏切って、最高に面白い。

大きな理由は、今まで書いてきたことのまったく逆。すなわち作り手側が、この馬鹿馬鹿しい虚構世界を徹底的に信じ、それをリアリティのある映像としてフィルムに焼き付けようと精魂を傾けているのがはっきりわかるからだ。しかもその情熱は実際の映像に見事に結実し、日本製のSF映画としては、確実に五指に入る出来映えとなっている。


なるほどストーリーは『ターミネーター』をベースに、『E.T.』『レオン』を加え、ジョン・ウー映画や『マトリックス』のアクション/ヴィジュアルをふりかけた代物だ。ところが不思議なことに、それがちっともいやらしく映らない。
これは大半のパクリ映画が、どこかで「これパクリなんだよね〜(わかるでしょ、だから安っぽくても許してよ〜ん)」と言う気色悪いニヤニヤ笑いを浮かべているのに対し(ex.『キングギドラvsゴジラ』におけるターミネーターネタの無様さを見よ!)、この作品には卑屈さというものがない。実に堂々としている。パクリであることは確かだとしても、そこには「面白い映画を作るのに必要だからパクったまでだ。それによって最終的に面白い映画ができればそれでいいのだ!」という自信が漲っている。これは『スター・ウォーズ』が黒澤映画や各種剣戟ものをはじめとする様々な娯楽映画のパクリであり、『エイリアン』が古めかしいモンスター映画の焼き直しでありながら、その娯楽作品としての完成度によって、パクリや焼き直しのいやらしさを感じさせなかったのによく似ている。
もちろんもっとオリジナルな題材で面白い映画を作れればそれに越したことはないが、「結果として面白い映画が出来るのであれば、パクリであっても、それはそれで構わない。オリジナリティはあるが退屈な映画よりはマシ」という立場に立てば、この作品の洋画からのパクリは、娯楽作品としての価値を何ら貶めるものではない。


日本のSFでは、これまでどうしても足を引っ張りがちだったVFXは驚異的なレベルに達している。最先端のハリウッド作品に比べれば、まだまだ質感に甘い部分も見られるが、そんな技術競争の話ではなく、「そこに存在しない物を観客にリアリティをもって提示する」という目的からすれば、巨大宇宙船から2084年の未来社会まで、ケチを付けるようなところはほとんどない。これだけでも本作は日本映画史に一頁を記す作品と言っていい。
しかもそのVFXが、決してこれ見よがしの見せ物ではなく、あくまでも描くべき内容に即して過不足なく使われている点がさらに素晴らしい。例えばミリが未来に帰るシーンを見よ。あの極めて地味な、しかしこれまできちんとした形では見たことがあるようでいてなかったVFXは、2人の別れの切なさを的確に表現しているではないか。あの抑制された演出に、僕は深い感動を覚える。
荒唐無稽でありながら嘘くささを感じさせない、スタイリッシュなアクションシーンも最高。もっとも冒頭の立ち回りは、金城の動きがあまりに常人離れしているため、てっきりこちらも未来から来た人間か、さもなくばサイボーグだろうと思ってしまったが…


そして何よりも絶賛したいのは、俳優陣だ。もしこの顔ぶれが揃わなかったら、本作がこれほどの傑作になることはなかっただろう。

その筆頭は何と言っても鈴木杏! 最初見た時は、『ジュブナイル』における超絶的美少女が、小林聡美似(角度によっては高橋かおり似)のプクプクとした丸顔になっていて、「ゲッ! 彼女もまたジェニファー・コネリーの轍を踏むのか!」と暗い気持ちになったものだが、それは大きな間違いであることにほどなく気づいた。超絶的美少女は、いつの間にか天才的若手女優に成長していたのだ。
例えばブティックに連れて行かれて「オオ〜〜ッ!」と喜ぶシーン。この手の作品にはよくあるシーンだが、そのだささに赤面しなかったのは、ひょっとするとこれが初めてかもしれない。それほどに彼女の感情表現はナチュラルで、すんなりとこちらの胸に響いてくる(このシーンについて言えば、妙にチャラチャラした音楽を入れなかったストイックな演出も賞賛に値する)。
そして最大の見せ場は、何と言ってもスパゲッティを食べるシーンだ。世界中の一体誰が、初めて食べたスパゲッティの感激をあんな風に伝えられるだろう。2回目に見た時は、このシーンだけで涙がこぼれそうになった。そもそもこのアルデンテネタは僕の心のツボを突きまくりで、別れの直前に言う「アルデンテ食いたい」「お前わざと間違えてるだろう」というやり取りは、この映画で最も感動的なシーンの1つだ。他にも最後のReturn時における万感を込めた表情、前半のコミカルなシーンでのコメディエンヌ的な動きなど、すべてが素晴らしい。
またミリはこの映画で何度も涙を流すが、それらの涙にそれぞれきちんとした意味を与えて表現している点も賞賛に値する。すなわち「初めて食べたスパゲッティに感激してこぼす涙」「ミヤモトの嘘に怒りと落胆を覚えての涙」「せっかくここまでやったのにもうダメだと絶望しての涙」などが、すべて別々の涙として表現されているのだ。ある意味当たり前のことではあるが、ではその当たり前のことを当たり前に表現できる俳優がはたしてどれだけいるだろう? 
かのマイルス・デイヴィスは「今までで一番苦労したレコーディングは?」という問いに対し『ポーギーとベス』を上げていたそうだ。その理由は「”ベス、ユー・イズ・マイ・ウーマン”という台詞を(トランペットで)8回も意味を変えて吹き分けなくてはならなかったから」。当たり前のことを当たり前に表現するのは、決して簡単なことではないのだ。

彼女に次いで素晴らしいのが敵役の岸谷五朗。しつこいようだが日本のSFやファンタジーでこの手の敵役が出てくると、子供だましになったり、やりすぎになったりで、大抵目も当てられないことになる。ところがこの映画の岸谷は、まさにやりすぎ一歩手前で最高の切れっぷりを見せてくれる。やはりこの手の映画は魅力的な敵役がいないと締まらない。岸谷演じる溝口はその点完璧だ。普通なら未知の能力を持つエイリアンを私利私欲のために使おうとするなど愚か者のやることであり、映画として描けば単なるバカにも見えかねない。ところがこの映画における溝口は、単に凶暴なだけでも、功利的なだけでもない、もっと底知れないダークサイド、破壊的なニヒリズムを抱え込んでしまった人物として表現されている。すなわち彼にしてみれば、自分の野望の結果として命を失おうが、地球が滅びようが、大した問題ではない。むしろそういったカタストロフを望んでいる節さえうかがえる。だからこそ常識的に考えればありえないエイリアンの強奪と悪用にも説得力が出てくる。そんなとんでもないキャラクターを岸谷は見事な説得力をもって演じきっている。

一応の主役(本当の主役はやはりミリだと思う)金城武も、あとの2人には及ばないものの、超人的な身体能力と切れ者の頭脳を持ったヒーローをしっかりと演じている。台詞が棒読みという意見もあるようだが、僕はほとんど気にならなかった。この手のヒーローが妙に雄弁だったりしてもそれはそれで変だろう。無駄口を叩かない(=当然お喋りは下手なはずだ)古典的なヒーローとしては、あれで十分だろう。ルックスといい体の動きといい、ヒーローとしての格好良さは文句なしだ。余談だが、彼の履いていたブーツは、僕が日頃愛用しているのとまったく同じダナーライトだった。やはりあれ以上しっかりと足を支えてくれる靴はないのだなと、変なところに感心した。

脇役では、もちろん樹木希林が最高。この人もキャラクターが強いだけに使い方を誤ると映画のバランスを崩すことになるが(『命』もねえ…江角マキコの母親が樹木希林って、いくら何でもそりゃないだろう)、この映画にはピッタリとはまっている。ボス役の高橋昌也、その脇にピタリと付く謎の美女役川合千春も雰囲気たっぷり。唯一残念だったのは、大好きな岡元夕紀子に見せ場らしい見せ場がなかったことだ。


もちろんこの作品には幾つもの欠点がある。

VFXは頑張ってはいるが、ハリウッド映画と違い、それ以外のシーンの空気感まで同じ世界観で塗りつぶすことは出来ていない。つまりカメラに映っているシーンはまだしも、そこの角をちょっと曲がると、そこにあるのは『Returner』の世界ではなく、今我々が生きている平凡な現実社会…という匂いが感じられてしまうのだ。ハリウッド映画は、そういう直接画面に映らない部分にまで、しっかりと虚構世界の厚みを与えてしまう点が凄い。

『ジュブナイル』に対して「とにかくテンポがもったりしている。プラス20%ほどの速度で早送りしたくなった」と書いたが、ストーリー展開のテンポの悪さはこの作品でも健在。特にエピローグシーンはダラダラしすぎ。あそこをもっともっと短くテンポ良く決めていたら、感動は倍増したことだろう。
ただ総じて言えば、この欠点は前作に比べれば遙かに改善されている。前作がプラス20%早送りすべきだとしたら、今回は平均すればそれが5%ほどになっている。したがってこの点については、今存在する欠点よりも、前作からの進歩の方を、より重視したい。

ソニックムーバー(これの元ネタは明らかにサイボーグ009の加速装置だよな)という強力なテクノロジーが出てくる。これを駆使すれば、実はギャング団を蹴散らすことなどさほど難しいことではないはずだ。あれを使って溝口を撃ち殺してしまえばいいのだから。しかし映画の中ではそれができない理由がまったく説明されていないため、冷静に見るとある意味馬鹿馬鹿しい展開となっている。
ただしこれは映画の外から事情を眺めれば、すぐに答は出る。つまりソニックムーバーの持ち主が基本的にミリである以上、溝口を撃ち殺すのはミリということになる。だがここで「14歳の女の子が人を撃ち殺すのはまずい!」という、映画世界ではなく現実世界の規制が発動される。事実ミリは、あれほどの大活躍をしながらも、実はエイリアンまで含め、誰一人として殺してはいないのだ。殺人行為のほとんどは裏社会の人間たち、すなわち映画的には「殺し合っても許される存在」の間でのみ行われている(多分何も知らないであろう研究所の所員が撃ち殺されていたが、何分キャラクターなどまったく描かれていない存在なので、これは単なる記号として見る方も抵抗感を抱かず受け入れられる)。
すなわちソニックムーバーを駆使して緊急事態を回避できないのは、あくまでも映画外の事情による。だが実態はそうであっても、そういった規制を映画のストーリーにうまく組み込んで、見ている者を納得させるべきだろう。「ソニックムーバーの使用回数には限りがある」という台詞はあったが、残念ながらその台詞は、ストーリーの中でまったく活用されないまま終わっている。これはやはり欠点と言わざるをえない。
限りがあるといえば、ミリが未来から持ち込んだ、現代の銃より遙かに強力なはずの銃も、どうやら弾丸が一発だけ残っていたようだが、その「一発だけ」という設定がうまく伝わっているとは言い難い(銃を見るショットがあるが、あそこで「残数1」とでも出ていたのだろうか? 僕には見分けられなかったのだが)。


…というような欠点はいくつか見られる。水も漏らさぬ完璧な作品だとは残念ながら言いにくい。

だが、そのような瑕を補って余りある、娯楽作品としての素晴らしい魅力をこの作品は持っている。


本年度屈指の傑作として、日本のSF映画史上特筆されるべき作品として、僕はこの『Returner』を絶賛する。


(2002年9月初出)

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Comments

トラックバックありがとうございます。
確かにアクションは目を見張るような出来栄えで感動しました。
でも、やっぱり僕には金城武の棒読みが気になって仕方なかったです。

Posted by: dustsign | 04/04/2005 17:44

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