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04/22/2005

【本】『電話男』小林恭二

だいぶ前に読んだのだが、書くまでにずいぶん間が空いてしまった。小林恭二書評第4弾だ。


『電話男』

1984年の小林恭二デビュー作。第3回「海燕」新人文学賞受賞作。

「電話男」と呼ばれる人々が存在する世界を描いた話。語り手は一人の電話男。彼の口から電話男の歴史と、彼らの前に立ちはだかった「UFO研究会」の不思議な顛末が語られてゆく。
電話男とは何か? およそ50ページ、全体の半分以上を費やして電話男の実態と存在意義が描かれているので、それを要約するのは困難だ。極めて大雑把に言うなら「金を取ることもなく、人々の電話の話し相手となり、その孤独や不満を慰める存在」とでも言ったところか。
そこまで書けば、誰しも「何だかインターネットみたいみたい」と思うことだろう。まさにその通り。この電話男や、話し相手として電話男を求める人々を、今のネットワーカーに置き換えて読むことは、あまりにも容易だ。しかし凄いのは、この作品がまだインターネットなどまったく普及していなかった1984年の作品だということ。まさか小林恭二も、今のようなネットの普及を見越した上でこの物語を書いたわけではあるまい。電話という機械を通じたコミュニケーション、そのの可能性と孤独に関する考察が、そのままネットを通じたコミュニケーションにも当てはまってしまったということだろう。言うまでもなく、それは小林のコミュニケーションに対する洞察が、いかに的確で普遍的なものであったかを示している。

しかし正直に言えば、この作品をどう評価してよいのやら、未だに計りかねている。と言うのも、後半電話男たちの宿敵「UFO研究会」が登場してから、話の意味がわからなくなってしまうからだ。もう一度読み返したみたのだが、やはりUFO研究会という存在と、その「消滅」、その後に電話男たちを襲った「暗黒幻想」の意味がわからない。例によっての小林文体なので、意味がわからなくても面白く読めてしまうのが痛し痒しだが、ともあれ後半に関しては判断不能。したがって作品全体も、現時点でははっきりとした評価は下せない。読んでいて面白いことは確かなのだが…


『純愛伝』

タイトルからして、まったく別の話だと思って読み始めたら、何とこれが『電話男』の姉妹編。『電話男』と同じ小説世界の中で繰り広げられるもう一つの物語だった。

妻が電話男になってしまった塾教師の物語(女なのに電話男?と思う人もいるだろうが、これは単なる呼び名だからいいのだそうだ)。普通の夫婦生活が崩壊し、物理的にはどんどん遠い世界へと離れていく夫婦が、むしろその過程で互いの愛を深めてゆく姿が描かれる。
設定は例によって法螺話そのもの。しかしその呆れ返るような設定をくぐり抜けると、最後に待っているものは、タイトルに偽り無しの純愛物語。これはまさしく『ルビー・フルーツが熟れる時』の中の一編「友子」の原型とも言うべき作品だ。『電話男』の後半に感じた釈然としない思いも、この作品によってすべて解消された感じだ。


二編に共通して言えるのは、明らかに村上春樹の影響が感じられること。1984年…村上春樹が若手作家の代表として急速に台頭しつつあった頃だ。おそらく小林も村上の本は読んでいただろうし、このようなテーマを、現実と非現実の入り交じった設定で描こうとすれば、ある程度似てくるのは仕方のないところだ。全体の雰囲気は『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』や『羊をめぐる冒険』といった暗めの長編にかなり近いが、羊男などが登場する幾つかのファンタスティックな短篇にも、よく似た雰囲気を持っている。
だが肝心なのは、初期においては村上春樹のフォロワー的な位置にいた小林が、そのわずか3年後に『ゼウスガーデン衰亡史』のような突出した作品によって、独自の個性を確立してしまったという事実だ。この急成長ぶりは半端なものではない。もちろん『ゼウスガーデン衰亡史』にもガルシア・マルケスや筒井康隆、小松左京などの影はちらついているが、そのような先達の要素を貪欲に取り入れつつ、「他の人に似ている部分もあるが、全体としては紛れもない小林恭二作品」というオリジナリティを確立していることは間違いない。


ともあれ期待を裏切ることのない人だ。さらに読み進めていくとしよう。今度は法螺話が得意の小林が、限りなく私小説的な作品を書いたと話題の『父』だ。


(2001年8月初出)

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