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04/14/2005

【映画】『少林サッカー』娯楽映画の王道

とにかく面白いという噂ばかりが先行していた『少林サッカー』。先行上映でようやく実物を見て納得。こりゃ本当に面白い。場内の観客がこれだけ盛り上がって何度となく拍手が起きた映画は久し振りだ。濃い香港映画ファンが集まっていそうな新宿・渋谷の劇場ならともかく、郊外のシネコンでこれほど盛り上がるのだから、この楽しさは本物だ。

と言っても不満がないわけではない。不満は幾つもある。最大の欠点は、前半の展開がかなりたるいこと。特に一番上の兄ハブのキャバレー関連の描写はかなりしょぼいものがある。あの「カリフォルニア・ドリーミング」の寒さには思いきり脱力した笑いがこみ上げたが、それにしても少々くどい。その後他の兄弟をチームに引き入れていくあたりも相当にゆるい。さらにひどいのが中盤の初試合。ギャグがベタすぎて笑うに笑えない。そういう不出来な点があまりにも目立つので、見終わった今でも「傑作」と言う言葉を素直に与えるのには躊躇する。

だが後半、彼らに力が甦って以降の怒濤の展開は、そんな欠点を補って余りある。払ったお金よりお釣りが多く返ってきたような気分だ。

少林拳の秘技をサッカーの試合で活用するという、ありそうでなかったアイディア。しかもSFXをバリバリに使用して、日本の漫画のごとき荒唐無稽な描写を実写でやってしまうのだから大笑いだ。だがこの作品の楽しさは、根本的にはそれほど新しいものではなく、連綿と続く娯楽映画の王道に則ったものだ。スポーツを通じて、見失っていた本当の自分を取り戻す復活劇。美しい白鳥へと変貌する醜いアヒルの子。強大な敵の出現。仲間の自己犠牲。発想の転換による大逆転。そして愛の勝利…大衆娯楽映画の王道がこれでもかと言わんばかりのヴォリュームで詰め込まれている。
これだけの要素を揃えたら、よほどヘタな脚本と演出でない限り確実に佳作レベルの作品はできるだろう。そして本作は、先に述べたようなアイディアと漫画的としか言いようのない破天荒な描写の楽しさ、そして登場人物の素晴らしいキャラクター描写によって、単なる佳作レベルを遙かに超えた作品となっている。

例えば最後の試合がどういう結末になるかなど、あれだけ過剰に伏線を張りまくれば、誰の目にも明らかだ。だが観客は、その予定調和としか言いようのない結末を今か今かとドキドキしながら待ち続ける。それは何よりもキャラクター描写の勝利だ。登場人物への強い共感故に「どうせこうなるだろう」ではなく、「ぜひこうなってほしい」という強い希望を観客に抱かせてしまうからだ。いつあの人は現れるのか、そしてあの言葉をどんな風に実践してくれるのか…その時が来るのを、今か今かと期待し、その瞬間が訪れると思わず目頭を熱くしてしまうのだ。


恥ずかしながらチャウ・シンチーという人の映画は初めて見たのだが、なるほどこれならぜひ昔の作品も見てみたいと思わせる力に溢れている。個人的には香港流のベタな笑いのセンスは今ひとつ苦手なのだが、これだけの作品を作ってしまう人なのだから、よもやそれだけで終わってはいまい。
上の記述からもおわかりだと思うが、僕はそれほど香港映画をよく見ている方ではない。ところがそんな僕でさえ、思わずニヤリとする香港映画のパロディを幾つも発見してしまうのだから、マニアの人にはそういう点からもたまらない映画なのだろう。なお、最近『ウォーターボーイズ』以外で、これによく似た雰囲気の映画を見たなあ…と記憶を探ったら、ジョニー・トー監督の『痩身男女』(一体いつ正式に日本公開されるんだ!)だった。なるほど、この乗りは娯楽映画の王道にして、香港映画の王道でもあるということか。
また、この作品はどう考えても日本のスポーツ漫画から相当な影響を受けているはずだ。『あしたのジョー』『巨人の星』『アパッチ野球軍』といった古い作品から、数々の少年ジャンプ系列の漫画まで。パンフでは『キャプテン翼』が好きだとシンチーも言っていたが、それ以外にも様々な作品の様々なアイディアがこの作品に流れ込んでいることだろう。そういったネタ探しをしながら見るのも楽しい。


かくのごとく絶賛に値する作品だが、それと同時に、最初に述べたとおりかなりのアラもあるし、ストーリー展開にせよ細かい描写にせよ、突っ込みどころ満載の作品でもある。だがこの作品は、そのような突っ込みどころさえ愛おしくて仕方ない気持ちにさせてしまう、映画としての「愛嬌」に満ちている。人間にも、大抵のことは完璧にやり遂げ、極端な欠点はないのにどうしても鼻につく奴と、欠点だらけでドジばかりやるくせに、どうしても憎めない奴がいるだろう。この作品は、まさしく後者。しかもそんなドジな奴が後半で一世一代の逆転を決めてしまうのだから、これを褒めずにいられようか。
もちろん一人で見に行っても構わないが、可能ならばできるだけ大勢で映画館に見に行くことをお薦めする。見終わった後、作品の楽しさについてたっぷりと語り、それに加えて突っ込みどころについてもゲラゲラ笑いながら語り合えば、まさに一粒で二度美味しい映画。デート向けと言うより、大勢でわいわい楽しむのに、これほど打ってつけの映画もないだろう。


(2002年5月初出)

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