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04/26/2005

【映画】『ベッカムに恋して』サッカー映画ではなくインド映画

配給会社が力を入れて宣伝したものの、ターゲットの食い違いなどもあり、興行的にかなりの苦戦を強いられている本作。しかしそんなことで見逃すには惜しい、実に楽しく可愛らしい作品だ。映画を見て楽しい気分を味わいたい人には、声を大にしてお薦めしたい。

配給会社の最大の失敗は『ベッカムに恋して』という邦題を付けた事だ。この邦題から連想されるイメージは、作品の本質を何一つ伝えていない。ベッカムは「超一流のサッカー選手」という記号以上のものではなく、ベッカム自身に何の興味もない人でも、本作の鑑賞にはまったく影響ない。それどころかサッカーに興味がなくても全然関係ない。この作品において、サッカーはあくまでもストーリーを進めるためのお膳立てに過ぎず、例えばこれがバスケットやバレーや野球になってもほとんど影響はないだろう。極端な話、「ボールをゴールに蹴り込めば点数が入る」というルールと、基本的には男のやるスポーツであること以外、サッカーに関する予備知識など何も必要ないのだ。むしろこの作品をサッカー映画、あるいはベッカム絡みの映画として見れば、肩すかしを食うことになる。

では『ベッカムに恋して』とは一体どんな映画なのか? その答は…


 【1時間52分に凝縮されたインド娯楽映画】
 

この一言に尽きる。

主人公がインド系イギリス人の少女だからというだけではない。友情、恋愛、スポーツ、家族、笑い、涙、コンプレックス、結婚式、異文化の衝突、カラフルな衣装と美術、そして歌と踊り! あらゆる娯楽映画の要素が、これでもかと言わんばかりのヴォリュームで盛り込まれている。普通これだけの要素を一本の作品に盛り込めば消化不良になりそうなものだが、非常にスピーディかつ無駄のない演出によって、一つの作品内に見事におさまっている。その分個々の要素に対する掘り下げが浅くなっているのは否めないが、その点が僕にとっては逆にリアルだった。実際の人生は映画のように一つの大きなテーマを中心に動いているわけではない。様々な問題や喜びや悲しみが次々とやって来ては、それをどう解決したのか、あるいは解決しなかったのかもわからないまま日々が過ぎていく。この作品の雑多さとせわしなさと底の浅さは、妙にそんなリアルな人生を感じさせてくれるものだ。

ただ僕は出てくるネタのほとんどが守備範囲だったので大いに楽しめたが、膨大な情報と細かいネタが次から次へと押し寄せてくる演出についていけない人もいるだろう。そしてこの映画、そういう細かいネタがわからないと面白さが半減するのも事実なのだ。だから娯楽映画にしてはボケッと見ていることができず、結構頭を使う作品でもある。その点に関しては、ある程度好き嫌いが分かれるのはやむを得まい。

そしてこの作品の最大の欠点は、事前に聞いていた情報どおり、サッカーの試合シーンにあまり魅力がない事だ。主人公の少女たちが、実際にはほとんどサッカーが出来なかったせいだと思うが、試合のシーンは細かいカット割りやコマ落とし、あるいは脚だけのアップなどで誤魔化されている。だがサッカーの試合なのだから、少しはロングの絵が入らないと気分が盛り上がらない。この点だけは何とかならなかったものか。
ただし監督もその弱点は理解しているようで、試合のシーン自体はオマケに過ぎず、他の部分に本当の見せ場を用意している。脚本も、普通なら最大のクライマックスになるであろう決勝戦をあえてクライマックスとせず、その後に幾つもの山場を設けているあたり、よく考えられている。

そしてこの作品の最大の魅力となっているのが、出演者だ。ジェス役のバーミンダ・ナーグラとジュールズ役のキーラ・ナイトレイ、2人とも実に素晴らしい。演技力もルックスも言う事無し。2人とも可愛いのだが、見ていて飽きの来ない、とても豊かで人間的な可愛らしさだ。あとでバーミンダ・ナーグラが実は1975年生まれだと知って驚愕したが、今後の人気沸騰は確実だろう。それ以外の助演陣も皆好演で、特にジェスとジュールズのそれぞれの両親が実にいい味を出していた。


幾つかの欠点もあるが、それを補ってあまりある魅力を持った『ベッカムに恋して』。「楽しい気分になれる映画を見たい」という人には、大いにお薦めだ。特にインド映画ファンはぜひ見て欲しい。何しろこれは「1時間52分に凝縮されたインド娯楽映画」なのだから。


(2003年5月初出)

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