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04/16/2005

【映画】『I'm so-so』絶好調ですよおおおお!(^o^)

さて2本目はキェシロフスキのドキュメンタリー『I'm so-so』だ。
最初にまたイレーヌ・ジャコブのインタビュービデオが上映され、その後映画評論家の和久本みさ子と、ル・シネマの編成スタッフ(女性)の対談が20分ほど開かれた。キェシロフスキに関しては日本で一番詳しく、本人にも何度か会っている和久本さんだけに、興味深い話も幾つか聞く事が出来たが、ル・シネマの人の進行の問題もあって、内輪受けや内輪誉めが多かったのには、いささか鼻白むものがあった。


『I'm so-so』は、キェシロフスキ映画の助監督を務めてきたクシシュトフ・ヴィエジュツビツキが監督した、キェシロフスキのドキュメンタリービデオ。1995年、死の数か月前のキェシロフスキが自分の生い立ちや作品について語るものだ。死因は急な心臓発作なので(前から心臓は悪かったようだが)、まだこの時点では、近くに迫っている死を意識している様子はない。ただ『トリコロール』を撮り終えて映画監督引退を宣言した後だけに、「脚本を書いているが、誰か他の人間に撮って欲しい」と発言している部分は面白い。その脚本をトム・ティクバが監督した『ヘヴン』は、ついついティクバをキェシロフスキの代役のように見てしまいがちだが、キェシロフスキ自身が最初から別の監督に演出を委ねるつもりだったのだから、あれはあれで正しい映画化だったと考えるべきだろう。

ドキュメンタリー作品としてはかっちりまとまっており、56分間まったくだれるところはない。ただ逆に台詞が多すぎて字幕を追いかけるのに精一杯になってしまい、じっくりものを考えたり、思いを巡らせたりする余裕が持てなかったのは少し残念だ。DVDを使って、自分のペースでじっくり見直したい。

興味深い発言はたくさんあるが、一番印象に残ったのは「私の仕事は何かをわかることではない。何かをわからないままでいることだ」というものだ。何やら詭弁じみた響きを帯びた言葉だが、キェシロフスキの映画、とりわけ『デカローグ』を思い浮かべれば、その言葉の持つ重みとリアリティが、ずしんと胸に響いてくる。キェシロフスキの映画は、「なぜ自分はこんなにも苦しまなくてはならないのか?」という登場人物の問いに、決して答を与えようとしない。彼らの苦しむ姿を冷静に見据え、その上で、同じ苦しみを抱える他者として出来る限りの共感を示すだけだ。
そんなキェシロフスキの姿勢は、最初の方で語られた「唯一の正しい道」に対する懐疑から生まれたものかもしれない。共産主義とキリスト教という2つの巨大な信仰が生活を支配するポーランド。しかしキェシロフスキの抱える孤独や悲しみは、それらの差し示す教義によっては解決できないものであり、「大きな思想による大きな解答」には嘘くささしか感じられなかったのだろう。そこで彼は、生きる事の苦しみに安易な解決策を示すことなく、ただその苦しみに耐える道を選んだ。「なぜ自分はこんなにも苦しまなくてはならないのか?」という問いに答を見いだせぬまま、それでも生きていこうとする人々の姿を、共感を持って描き続けることにした。そして「苦しみに耐えているのは決してあなた一人ではない」というメッセージによって、人々を勇気づけようとしたのだろう。


なお、タイトルの『I'm so-so』とは、「アメリカのライフスタイルとは肌が合わない」というキェシロフスキの話から来ている。ちょっとオーバーに脚色して説明するとこんな感じだ。

  とにかくアメリカ人は苦手なんだよ。例えばアメリカのエージェントに
  電話して「調子は?」と尋ねると「そりゃもう絶好調ですよおおおお!
  (Extremely good!←このgoodはグッドではなくグゥ〜〜〜〜ッド!と
  いう感じ。ひょっとするとniceだったかもしれない)」と来るんだ。
  僕だったら「まあまあだね(I'm so-so)」って感じ。ところがアメリカ人は
  「絶好調ですよおおおお!(^o^)」だもの…あの無意味に過剰な明るさは
  何とかならないものかねえ…
 
『ふたりのベロニカ』で、キェシロフスキとキューブリックの比較について書いたが、ニューヨーク生まれのキューブリックがイギリスに移り住んだ理由も、案外この「絶好調ですよおおおお!(^o^)」に辟易したせいかもしれないな…


(2003年3月初出)

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