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04/13/2005

【音楽】fra-foa 2003.1.23 ティアラこうとう

2003年1月23日(木) ティアラこうとう


ゴタゴタしている内にすっかり日が過ぎてしまった。しかしこれだけは書いておかねばなるまい。昨年10月5日の赤坂BLITZ公演の評も忙しくて書き損ねたし、何よりも当分の間fra-foaのライヴ評は書けないのだから…


1月23日木曜日、ティアラこうとう小ホールという、わずか140席の小さなホール(江東区立)でのライヴ。なぜこんな変わった場所でのライヴが決まったのかはよくわからない。MCで高橋が「(ティアラこうとうに)呼んでもらって…」とか言っていたので、多分ホール側からバンドに声を掛けたのだろう。今後の予定を見ると、他にも面白そうな企画が幾つかあって、興味を引かれるホールだ。家から遠いのが難点だが。

会場の問題はともかく、全てのfra-foaファンが、これほど不安な気持ちで臨んだライヴはかつてなかったはずだ。

何しろ昨年12月に一挙に発表された情報と言えば、三上ちさ子の結婚&妊娠(今6か月)、彼女の産休に伴うバンドのライヴ活動休止、トイズファクトリーとのレコード契約終了、そして2003年にはちさ子のソロプロジェクトを予定…とめでたい事もあればめでたくない事もあるが、その全てが「バンド解散」を予感させるものだったからだ。幸運にもチケットを手に入れられたファンは、みぞれ混じりの冷たい雨が降る中、暗い気持ちを抱きながらティアラに向かったはずだ。

地下鉄の駅を出て、いかにも江東区らしい空の広い通りをしばらく歩くと、ティアラこうとうが見えてくる。見る前に何か軽く食べておこうかと思っていたのだが、駅からホールまでの間に何もなかったので、結局そのままホールに入ってしまう。
小ホールは予想以上に小さい。と言っても、座席が扇形に広がって全ての席からステージが見やすい、無駄のない構造になっているので、余計小さく見えるのだろう。ホールの作り自体はしっかりしているし、新しいからどこもかしこも綺麗だし、小型のライヴハウスと考えれば、むしろ相当に良い会場と言えそうだ。
ただ可笑しかったのは、ステージが狭いためドラムスが正面後方に置けず一番右側に位置していたこと。つまり右からドラムス→ベース→ヴォーカル→ギターが一列に並ぶような珍しい形になっているのだ。もっともドラムセットが必ずしも真ん中に置けないわけではなく、大音量のドラムが身重のちさ子を直撃するのを避けるためと、ちさ子用の小型ソファを真ん中に置くために、このような配置となったのだろう。
そう、ステージ中央には小型のソファが置かれていたのだ。今日は座って歌うのだろう。ある意味ほっとした。妊娠6か月の身で、いつものように激しく動かれたら、見ているこちらが青くなる。

僕の座席は前から2列目のほぼ中央、信じられないほど良い席。タワーレコードのイベントは、最前列ど真ん中の最良ポジションだったが、何しろあの時は立ち見だったので圧死寸前で(笑)落ち着いて見られなかった。今日は初めて椅子のある会場でのライヴだ。ちさ子も座って歌うことだし、いつになく落ち着いて音楽と向き合うことが出来そうだ。


午後7時、ほぼ定刻通りにオープニングのBGMが流れだし、メンバーがステージに出てくる。そして最後に登場したちさ子…本当にお腹がでかい…。温かな思いとほろ苦い気持ちが混じった、複雑な感情が心に溢れる。
ダボッとしたネグリジェのようなゆるやかな服(マタニティドレス?)を着たちさ子は、裸足でステージに歩み出し、中央のソファに座る。

演奏が始まる。1曲目はファーストアルバム『宙の淵』の冒頭を飾る「真昼の秘密」。いつにも増して力強い轟音が、いきなり炸裂する。ちさ子の体が体なので無難なアコースティックライヴになるのではという事前の噂は、一瞬にして打ち砕かれる。
そこにあったのは紛れもないfra-foaの音だった。だがfra-foaがここまで確信に満ちた力強い音を出したことがあっただろうか。今日のライヴはいつもと違う…この瞬間、誰もがそう思ったに違いない。

2曲目は「君は笑う、そして静かに眠る。」、3曲目はもう歌われることはないのではと思われていた最大の名曲「青白い月」、そして4曲目は「夜とあさのすきまに」。頭から4曲連続でファーストから。僕はラヴソング中心のセカンドアルバム『13 leaves』(ファーストの熱狂的ファンからは評判が悪い)もたいへんな名盤だと思うし、よく聴いてもいる。だがfra-foaならではのエッセンスが最も凝縮されているのが、このあたりのグランジロック・ナンバーであることも否定できない事実だ。よもやの選曲に、観客の熱気が高まるのが痛いほど伝わってくる。

いきなりファーストの曲を並べた構成は、それだけ見れば解散を念頭に置いたもののように思える。だが実際に出てきた音には、解散を予感させる悲しさや寂しさなど一欠片もない。それどころかデビューから3年近くたって、ようやく「自分たちが本来鳴らすべき音」を思い通りに鳴らすことが出来るようになったという喜びさえ感じられる。
昨年のON AIRや赤坂BLITZでのライヴでは、ちさ子の歌とバンドの演奏の間に方向性の食い違いが見える部分が多々あったが、今日はそのような違和感もなく、バンドが一体となっている。実に見事な演奏だ。特にベースとドラムスの鉄壁ぶりは凄い。ギターの高橋だけ少し演奏が荒い感じがしたが、いつもの事と言えばいつもの事だから許そう。ベースとドラムスがどっしりと土台を固め、その上をヴォーカルとギターが暴れ回るのがfra-foaの基本形だし。とは言え、彼のギターが「押し」だけでなく、もう少し繊細な「引き」の技を身につければ、バンドの表現力はさらに高まるのではないだろうか。
その感慨は、続く2曲「light of sorrow」と「出さない手紙」のアコースティックヴァージョンでさらに強まる。アコースティックギターを持っても、高橋の演奏自体はエレクトリックの時とあまり変わらず、アコースティックならではの繊細な響きを欠いている。そのため、本来ならもっと感動的になってしかるべきアコースティックセットが、まずまずというレベルで終わっていたのは実に惜しい。

しかしそれを補って余りあるのが、大きな成長を遂げたちさ子のヴォーカルだ。かつての彼女は、すぐに声は出なくなるわ、音程は危なっかしいわで、ヴォーカリストとしては不安定極まりなかった(それが逆に唯一無二のリアリティを醸し出してもいた)。だが今の彼女は、自らの決して広くない声域や細い声質を巧みにコントロールし、より音楽的な形で感情を表現できるようになっている。かつてのちさ子の歌は、「生と死」あるいは「永遠と一瞬」という両極端な要素の中でのたうち回ってきた。その両極端の間にある落差を、エネルギーに変えていたと言ってもいい。だが今のちさ子は、むしろその間にあるグラデーション部分に目を向け、諦念と希望の両方を抱えて生きる人間の感情を、より繊細に表現している。だから昔に比べるとヒリヒリするような切迫感は後退したように見える。だがそこには、以前には見られなかった「柔らかな強さ」がある。攻撃的な強さ、何かを否定する強さではない。哀しみをありのままに受け入れ、その上で自らの生を肯定しようとする、物静かな強さだ。

それはひょっとすると「母になる者の強さ」なのかもしれない。
だが僕が最も胸を打たれた彼女のMCは、こんな内容だった。「(お腹に子供がいる)今の内くらい、つながっているという感覚を味わっていたい。生まれてしまったら、いくら親子と言っても別々の人間だからね」
これを聞いて僕は「ああ、ここにいるのは紛れもない三上ちさ子だ…」と思った。愛する人と結婚し、子供がお腹にいるという、幸福の頂点にあっても、幸福感だけでは解決できない人間の根元的な孤独を、彼女は決して忘れてはいなかった。最近ファンの間では「ちさ子が幸せボケして、昔のような鋭さがなくなった」という意見がしばしば聞かれるが、何を愚かな。かつて生きる事の痛みを歌い上げていたちさ子は、今もその痛みや孤独感を忘れることなく、それに加えて生きる事の喜びを歌い上げている。表現者として、それはあまりにも正しい成長だ。

アコースティックセットの後は「BLIND STAR」「煌め逝くもの」、名曲「プラスチックルームと雨の庭」。そしてMCを挟んで「澄み渡る空、その向こうに僕が見たもの。」が演奏される。とうとう我慢できずにちさ子が立ち上がって歌い出す。見ているこちらがハラハラしてしまうが、バンドも観客も一気に興奮の頂点へと駆け上っていく。元々ポジティヴな歌詞を持ったアップテンポの曲だが、今日はそれがますます力強く聞こえる。
続いて壮大なバラード「crystal life」。熱を冷ますような静かなナンバー「afterglow」ではちさ子がキーボードを弾く。そしてラストはfra-foaの原点とも言える「月と砂漠」。全ての曲が、かつてないほどの強靱さをもって響き渡る。観客の誰もが、今日この場にいられた幸福を噛み締めていたことだろう。

アンコール前のMCでは、花ちゃん(赤ん坊の仮名)をバンドに入れる入れないの冗談で笑わせる。高橋の「うちのバンドにもちっこいメンバーが一人増えるようで…」という言葉に、やはりバンド解散の意向はないようだとホッとする。
アンコールはもちろん「小さなひかり。」。今のfra-foaとちさ子に、これほど似つかわしいナンバーはない。この名曲中の名曲が、いつにもまして優しく、力強く、感動的に歌い上げられた。

ライヴの終了時刻は午後8時45分。

1時間45分の、限りなく充実した時間。


fra-foaのライヴを見るのもこれで7回目だが、これほどポジティヴなエネルギーに満ちたライヴ、見終わって「気持ちいい」と感じたライヴは初めてだ。始まる前は「これがfra-foa最後のライヴかも」という不安に怯えていたが、少なくとも音楽的な観点から言えば、それは絶対にありえない。そう断言できるほど、今のfra-foaはバンドとして充実した状態にある。
もちろんバンドの解散やメンバー交替は、音楽以外の要素が理由で起こる事もあるので絶対とは言えないが、この日の演奏を聴けば、その可能性はかなり薄いと言えそうだ。出産が5月頃だから、fra-foaの活動再開、あるいは予告されているちさ子のソロプロジェクトは、早くても秋以降だろう。ヴォーカルが産休中では新しいレコード契約も難しいだろうし、物理的には困難な要素ばかりだ。
だが彼らはきっと戻ってくる。いつ、どんな形になるにせよ、その日を待ち続けよう…そう思わせてくれる、本当に素晴らしいライヴだった。

終わって外に出ると、みぞれ混じりの雨はもうやんでいた。来たときの暗い気分は消え去り、いつになくすがすがしい思いで、深く空気を胸に吸い込んだ。どんな冷たい空気も、この心の火照りを消す事など出来はしない。


セットリスト

 1.真昼の秘密
 2.君は笑う、そして静かに眠る。
 3.青白い月
 4.夜とあさのすきまに
 (MC)
5.light of sorrow (Acoustic Version)
6.出さない手紙 (Acoustic Version)
(MC)
7.BLIND STAR
8.煌め逝くもの
9.プラスチックルームと雨の庭
(MC)
10.澄み渡る空、その向こうに僕が見たもの。
11.crystal life
12.afterglow
13.月と砂漠
(アンコール)
14.小さなひかり。


(2003年2月初出)

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