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04/04/2005

【映画】『スリー・キングス』 熱い傑作

長年の映画ファンとしてのアンテナが、以前からこの作品に反応していた。そこで風邪を押して初日に見に行ったのだが、風邪薬のせいでイマイチ現実感が希薄。「こりゃダメだ。途中で寝るかも…」と心配したのだが、ひとたび映画が始まるや一瞬たりともも油断できない映像の連続で、最後までグイグイ引っ張り回されてしまった。見終わったとき、心なしか風邪も少し良くなったようだった。優れた映画には、風邪を退治する力まであるようだ。


湾岸戦争停戦直後のイラク。フセインが隠した金塊の地図を手に入れた米兵4人がその着服を企てる。金塊はあっけないほど簡単に見つかるが、彼らはその村でイラク政府軍が、反フセイン派の村人を弾圧する姿を目の当たりにする。兵士たちにとっては何の関係もないイラク人同士の問題。しかも停戦協定が成立したばかりなので、ここで政府軍と闘うわけにはいかない。だが彼らは思わず村人たちを助けてしまい、それによって予想もしなかった事態に巻き込まれていく…


これは一言で表現すれば、「湾岸戦争の地上における真実を描いた作品」だ。それもありったけの皮肉を込めて、あの勝ち戦の影にどんな悲劇が隠されていたかを、「殺す側」のアメリカ人に見せつけるための映画だ。

そもそも「戦争が終わったところから始まる戦争映画」という点からして皮肉ではないか。湾岸戦争と言えば、まるでテレビゲームのようなハイテク戦争、ブラウン管で実況中継される戦争ショーとして人々の記憶に刻み込まれている。冒頭、白旗を掲げた一人のイラク兵士を米軍兵士が狙撃する。その後の「この戦争で、銃で撃たれた奴を見たのは初めてだ」という台詞の中に、それがいかに一方的な戦いだったかが示されている。

だが当然のことながら、それは「殺す側」や、第三者的な立場で見ている側の話に過ぎない。テレビモニターの向こうでは実際に人が死に、阿鼻叫喚の地獄図が展開していたはずだ。そんな当たり前の、しかしつい忘れがちな事実を、この映画は斬新かつ痛烈な手法で描いていく。主人公の米兵4人は、戦争が終わったところから、弾丸が飛び交い、血と肉を削られる「本当の戦争」を経験することになるのだ。

その戦争の中で彼らは、アメリカ(及び多国籍軍に関わったすべての国々)の政治的エゴイズムを知ることになる。フセインに対する民衆の反逆を焚き付けておきながら、いざとなればそれに対する援助は行わず、当のフセイン政権すら温存させてしまうアメリカ。その結果政府軍の虐殺にあう人々… この映画は、最初は私利私欲で動いていた米兵たちが、アメリカが湾岸戦争でイラクに残したあらゆるツケを押しつけられ、その返済に四苦八苦する内に、人間としての誇りを獲得していく話だ。

…と書くと、恐ろしく政治的な話に聞こえるし、事実政治的ではあるのだが、そのようなテーマが大仰な理屈ではなく、様々な「死」の表現によってダイレクトに心に飛び込んでくるのが本作の凄いところ。「死」に至る過程は、凝りに凝った映像で新手のアクションとして楽しめるが、「死」そのものの表現は極めて即物的で、センチメンタルな思い入れを許さない。その非情で容赦のない表現には思わず鳥肌が立つ。銃弾の傷がこれほど「痛そう」に見える映画は滅多にない。

さらに凄いのは、本作が外見上はよくある戦争アクション/冒険コメディの体裁を保っているところだ。ただしその笑いは辛辣極まりないもので、時として笑いが凍りつくこともある。それがMTVを思わせる大胆な映像と細かいカッティングで描かれていくのだから、インパクトは強烈だ。
勝手な推測だが、『ファイト・クラブ』がダメだった人はこの作品にも抵抗を覚えるのではないだろうか。逆に『ファイト・クラブ』の演出に興奮した人なら、本作にもきっとゾクゾクするような目眩を覚えることだろう。


念のために言っておくが、この作品は決してよく出来た破綻のない映画ではない。むしろ全編綻びだらけで、オーソドックスなドラマツルギーの見地から見れば、いくらでも欠点は指摘できる。風刺劇としての鋭さに比べ、兵士たちの成長ドラマとして見ればかなり弱い。描写はあまりにも凝りすぎて混乱している部分もあるし、テレビリポーターの描き方など中途半端もいいところ。ラストも(いくら戦争アクションの伝統に則ったにせよ)甘すぎると思う。

だがそのような欠点を考慮しても、これは近年屈指の傑作だ。今までのいかなる戦争映画でも見たことがない斬新な映像のオンパレード。しかもその凝りまくった映像の中から、デイヴィッド・O・ラッセル監督の率直な怒りが見る者に伝わってくる。「死」の表現は安易なセンチメンタリズムを許さないが故に、容易に消えぬ傷として胸に突き刺さる。


そう、『スリー・キングス』は、その恐ろしくテクニカルな外見にも関わらず、切れば血が吹き出る「熱い映画」だ。大味な大作や陳腐な感動ドラマに騙されている場合ではない。「本当の映画」はここにある。


(2000年4月初出/2001年1月改訂)

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