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04/10/2005

【演劇】双数姉妹『ラバトリアル』 2005.4.9

双数姉妹『ラバトリアル』(THEATER/TOPS)


2005年4月9日(土) 19:30〜


双数姉妹の芝居を見るのは、昨年7月の『ファンシー★スグルとマナブと奇抜な父と』に続いて2度目だ。
まったくの偶然なのだが、昨年の6月から7月にかけて、「家族の崩壊と再生」をテーマにした芝居を3本ぶっ続けで見た。THE SHAMPOO HATの『肉屋の息子』、グリングの『旧歌』、そして双数姉妹の『ファンシー』だ。同じようなテーマを扱いながらも、その描き方が三者ともまったく違う点が非常に興味深かった。
だがこの3本を比較して順位を付けると、双数姉妹の『ファンシー』が一番下位にくることになる。THE SHAMPOO HATはミステリー仕立ての構成とアクの強い役者たちの演技で鮮烈な印象を残したし、グリングはかなり地味ながら、じんわりと心に染み入る感動を与えてくれた。双数姉妹は、現在と過去が交錯する構成がユニークだったが、あとの2つに比べると決定打に欠けていたし、「双数姉妹の芝居はこういうもの」というイメージも今ひとつつかみにくかった。
そのような偶然もあって、この3劇団は僕の心の中では奇妙なライバル関係に置かれている。THE SHAMPOO HATとグリングはすでに2作品ずつ見たが、双数姉妹は前作から約9か月ぶりで、ようやく2本目。その出来やいかに。


脚本が書けなくなるとテレビ局のトイレに籠もってしまう脚本家ノムラが主人公。掃除中の男子トイレを舞台に、ノムラと彼を取り巻く人々の過去と現在、白日夢(?)、そしてノムラの作り出した物語などが交錯する。タイトルの「ラバトリアル」とは「トイレのような」という意味。
様々な時空間における物語が、暗転すらないまま、一つの舞台上で展開される手法は前作『ファンシー』と同じ。多分これは双数姉妹の芝居の大きな特徴なのだろう。問題はそれがうまく機能しているかどうかだが、前作同様「可もあり不可もあり」という感じだ。これがあることでドラマに深みが出た部分も多いが、それぞれのシーンの関連がわかりづらく、感情の流れを断ち切ってしまう部分も少なくない。先日見た映画『エターナル・サンシャイン』もそうだったが、時空間をバラバラにする手法は両刃の剣で、目新しさによって最初の内こそ緊張感を維持できるものの、次第に飽きてきたり、ストレートな感動を妨げてしまう危険性も抱えている。

だがこの作品のストーリーには、「1/3くらい、小池竹見(脚本・演出)の実話なのでは?」と思わせるリアリティがあり、妙に身につまされる。その身につまされる部分の本質は、これまた前作同様「過去の人間関係への悔恨」なのだが、そんな思いを描く時、時空間を交錯させる手法は大きな力を発揮する。つまりこの作品においては、時空間の交錯という奇をてらった手法を使う必然性があり、全面的に成功しているとは思えないが、かなりの部分で成功していると言っていい。結果的には『ファンシー』よりもずっと巧みで、ユーモラスで、素直に見る者の心の琴線に触れる作品となっている。


しかしこでもまた、僕は奇妙な偶然に出くわすことになる。

かつては脚本家としての純粋な夢を追い求めていた人物が主人公。
その主人公は昔やっていた劇団の人間関係に負い目を持っている。
特に恋愛関係にあった一人の女優との間に忘れられない瑕を持つ。
思わぬ事から過去の瑕と向き合うことになる主人公。
心にグサリと突き刺さる言葉を吐きながらも、真剣に主人公の事を思ってくれる周りの人物たち。
そして本編の最後に訪れる、再生を暗示する決め台詞…

これ、ちょうど半年ほど前、同じTHEATER/TOPSで見たグリングの『ストリップ』にずいぶん似てないか?

もちろん小池竹見が青木豪の作品をパクッたという意味ではない。『ストリップ』は2002年が初演で昨年の公演は再演だし、そもそもこのようなテーマは、演劇人であれば一度は書いてみたくなる内容なのだろう。これまた昨年に続いての単なる偶然に過ぎまい。そう頭ではわかっていても、奇妙なデジャヴを覚えずにはいられなかった。これで6月末に上演されるTHE SHAMPOO HATの新作まで似たような内容だったらどうしましょう。


役者は全員いい。男性陣では、主人公の脚本家を演じる今林久弥、声がとても魅力的な小林至、そして佐藤拓之あたりが特に目立ったが、それ以上に女優陣が素晴らしい。ワケあり掃除婦の野口かおるは不思議な存在感で、場にユーモラスな空気をもたらす。それと対照的に、神経症的な雰囲気をふりまく井上貴子。大きな成長を遂げたのが吉田麻起子。女優陣の中では突出して可愛らしく、それ故に前作では一人浮き上がっていた感もあったが、今回は彼女がそこにいる必然性をしっかりと感じさせてくれた。まだまだ「頑張って演技をしている」という感じが透けて見えるが、今後の更なる成長に期待がかけられる。そして一番の見物は北京蝶々から客演の帯金ゆかり。あの得体の知れぬ存在感は一体何だろう? ぜひ他の芝居も見てみたいと思わせる力に満ちていた。


とても魅力的な部分と、まだまだ未完成な部分の両方を感じさせる双数姉妹。12月の次回公演も、当然足を運ぶことになるだろう。


(2005年4月初出)

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Comments

TB、ありがとうございました。
わたしも、北京蝶々の帯金ゆかりが気になりました。
次のアトリエでの公演、覗いてみようかな、と思っています。

Posted by: 蜜蜂 | 04/11/2005 04:46

TBありがとうございます。
私も次の公演を観に行くと思います。
グリングも観たことがないので行こうかな。

Posted by: しのぶ | 04/13/2005 21:51

グリングはとてもいいですよ。作風はオーソドックスで、実験性のようなものは薄いけれど、人間を見る暖かな視点に泣かされます。7月のTHEATER/TOPS公演をぜひ見てあげてください。

Posted by: ぼのぼの | 04/14/2005 00:59

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