【演劇】ク・ナウカ若手新人公演『エレクトラ』2004.2.21
2004年2月21日(土) 14:00〜 サイスタジオ大山
ク・ナウカ若手新人公演の『エレクトラ』である。場所は東武東上線の大山駅にあるサイスタジオ大山。こまばアゴラがある駒場東大前並みに何もない場所を想像していたら、すごく賑やかな商店街が開けていて驚いた。しかしチラシに載っていた地図、わかりにくすぎ。最初反対側に出てしまった。せめて線路のどっちが池袋向きかくらは書いておいて欲しい。
だいぶ前に予約してあり、当然金を払ってみるつもりだったのだが、先日劇団の会員になって13000円払ったおかげで、予約確認をしただけで入れた。いいなあ、こういうシステム。
スタジオは、もっとしょぼい感じを想像していたのだが、意外なほどきれいだし広い(ただし天井は低め)。基本的には練習場なわけだが、これはこまばアゴラなんかよりも良いのではなかろうか。
ク・ナウカの本公演は、老若男女バランス良く入り乱れているのだが、今日の観客は若い人がほとんど。しかも異常なほど美女率が高い。おそらく他の劇団の女優や女優の卵であろう。他には理由が考えられない。
さて芝居だ。ソポクレスによるギリシャ悲劇『エレクトラ』。『オイディプス』は読んだが、『エレクトラ』は読んでいない。どんな話だっけ…と思いつつ見ていたら、アンゲロプロスの『旅芸人の記録』の原作(?)であることにすぐ気がついた。そんなわけで、あの映画を思い出しながら見ていくと、一層興味が湧く。
結果的には、まずまず面白かった。若手新人公演としては十分に及第点だろう。えんぺの一行レビューでは「ク・ナウカがク・ナウカの真似をしてどうする。新鮮さや未来への広がりがまっくた感じられない」という厳しい評も目にしたが、若手新人によるアトリエ公演、つまり日頃の勉強の成果を発表する場に、そんな多くを期待するのは酷ではなかろうか。新しい可能性を示すのは、若い人がク・ナウカの基本を習得した後の話なわけで…
最も良かったのは、エレクトラ役の杉山夏美。絶対ジムで筋トレしているだろうと言いたくなる筋肉質の肉体が見事だ(言うまでもなく女性である)。その肉体の隅から隅までまでが、意志の力によって正確にコントロールされているのがひしひしと感じられた。
誰かに似ているとずっと思っていたが、終盤ようやく宝生舞に似ていることに気づく。宝生舞にもっと強いアクを加えたかなり癖のある美人。でも今までの公演で見たことないなあ…と調べてみたら、『マハーバーラタ』にも出ていたらしい。ただし脇役のスピーカーとして。それでは覚えてないのも無理はない。次の『ウチハソバヤジャナイ』にも出るらしいが、ビリングでは一番最後だから、あまり多くの出番は期待出来ないだろう。ともあれ今後要注目の女優である。ちょっと小柄なのが気になるが、女王 美加理も、実際は小柄なのに舞台に立つとすごく大柄に見える。彼女があのようなオーラを身につけていくことを期待しよう。
最大の問題はスピーカーである。ムーバーは杉山以外もほぼ及第点なのに対し、スピーカーの方は阿部や吉村といったレギュラー陣との差があまりにも歴然としている。ク・ナウカ演劇の大きな魅力は、スピーカーの語りとパーカッシヴな音楽が醸し出すグルーヴ感なのだが、そのような音楽性はほとんど感じられなかった。素人見にはムーバーよりスピーカーの方が簡単そうに思えるが、この公演を見てそんな甘いものではないことがよくわかった。
一つには、肉体を使ったパントマイム的表現はどんな役者志望でもそれなりに勉強し、身につけるのに対し、ク・ナウカ流の語りは、かなり特殊な技術であり、おそらくトレーニングの方法もムーバーの動きほどシステマティックに確立されていないのだろう。この点は、今後のク・ナウカの大きな課題だと思う。
なお王エギストス役のキャサリン・ドイルは、長い金髪にヒゲを付けて、まるでキャッツのようだ。前の女の子も思わず苦笑していたが、あれははたしてギャグだったのだろうか? 本公演でも「?」と首をひねりたくなるギャグが唐突に出てくるが、何もそんなところまで踏襲しなくてもいいような…
終演後外に出ると、大勢の観客が役者たちを取り巻いて談笑している。なるほど、やはり観客の大部分は出演者の知人友人であったか。チケットぴあ等にチケットを出しているわけではないので、そういう人たちか、熱心なク・ナウカ・ファン以外は、そりゃ来ないわな。ただそれにしても数が多い。観客の半分以上は知人友人だったのだろう。
(2004年2月初出)
The comments to this entry are closed.
Comments