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04/30/2005

【演劇】ク・ナウカ『マハーバーラタ』2003.11.9/2003.11.16

3か月半ぶりのク・ナウカである。初演作品にも関わらず、非常に評判が良かったので、大いに期待しつつ見に行った。


11月9日(日) 19:00 東京国立博物館 東洋舘地下1階 座席=A列1番

東京国際映画祭最後の作品『殺人の追憶』を見て、TEA MAGICで映画祭日記を執筆。FMOVIEにアップした後、渋谷から上野に向かう。銀座線で行ったのだが、これは失敗だった。地下鉄の駅から国立博物館までは相当な距離があり、しかもかなりの高低差がある。JRからでも距離はあるが、地下鉄よりはだいぶ近いし、何よりも駅の出口が坂を上りきったところにあるだけでたいへんな違いだ。天気が良ければともかく、すでに真っ暗で気温も低く、小雨がしとしと降る中、長い距離を歩くのは、実に気が滅入る。
場所が博物館の中なので、チケットに博物館の入場券も同封されており、展示物が見学できるというので、出来るだけ早めに着くつもりだった。だが結局博物館の前に着いたのは17時50分頃。「もう少し早く付きたかったなあ」と思いつつ来たのだが、着いてみれば何のことはない、博物館は17時で一度閉館し、18時にあらためて観客を入れる形だったので、18時まで門の外で待たされただけだった。張り切って1時間くらい前に着いていたら、あの暗くて寒くて小雨が降る中、目も当てられないことになっていただろう。

入場すると、横手に東洋館の展示物がある。ところが開かれているのは1階の中国、インド・ガンダーラの彫刻を集めた展示室だけ。2階から3階にかなりの展示物があるようだが、そこは入場できないようになっている。ガックリ。もっとも入場券は半券を切られていないので(このあたりどうなってるのかよくわからん)、また別の日に利用できるらしい。
その中国、インド・ガンダーラの展示物だが、本当に限られたスペースで、展示物も少ないので、じっくり見ても15分あれば見終わってしまう。ロビーは節電とやらで限りなく薄暗く、本も読めない状態。「何だかな〜」ということばかり。どうにもわびしい気分になってくる。

18時30分にようやく開場し、地下に入れるようになったが、案の定席はかなり狭いベンチ式。そんなところにずっと座っているのはいやなので、しばらくはロビーなどをうろうろする。だが次第に人が集まり、中に入るのが難しくなりそうなので(それほど狭苦しい)、適当なところで席に座る。
場所はA列1番。と言うと一番端の席に思えるが、主舞台にV字型で花道が伸びる非常に変わった配置で、A列1番はほぼ真ん中、一番前の列で、花道のすぐ横。まあベストに近い席と言っていいもっとも前に桟敷席(床にクッションを敷いただけ)のようなものがあって、実際は前から2列目になるのだが。
また席そのものについて言えば、もっと後ろの方が席と床の間に高低差があり、足を曲げる角度が浅くて済むので、快適だったと思う。何にせよ、この席はひどすぎる。いくら何でももう少し見る側の立場に立って、会場作りをして欲しいものだ。

19時を3分ほど過ぎた頃、芝居が始まった。

ストーリーは単純。世に名だたる名君ナラ王は、神々さえも恋する美女ダヤマンティーと結婚するが、それが気に入らない悪魔カリは、ナラ王に取り憑く。カリに取り憑かれたナラ王は、弟との博打で王国をはじめとするあらゆる財産を失い、ダヤマンティーと共に王国から追放される。自らの所行を恥じたナラはダヤマンティーと別れ、二人は別々の場所でそれぞれに苦労を重ねていく。やがてナラは自分に取り憑いた悪魔カリを追い出し、自らの命を賭けて弟と再度の勝負。見事勝利を収めて王国を取り戻し、すでに故国に戻っていたダヤマンティーと再び結ばれるのであった…

何だかどこかで聞いたような話である。いろいろな国の、いろいろな物語の原型となっているのかもしれない。解説によれば、『マハーバーラタ』は、聖書(旧約+新約)の15倍前後という、とてつもない長さで、一つの文学作品ととらえること自体無理があるらしい。今回のナラ王にまつわるエピソードは、当然そのほんの一部分に過ぎない。

そんな単純な話なればこそ、演出や演技が重要になってくるわけだが、今回特に良かったのは音楽だ。前回の『サロメ』は違ったが、ク・ナウカでは劇団員が生で音楽を演奏するのが基本。今回も打楽器系の民俗楽器を中心とした見事な演奏を聴かせてくれた。それにしてもク・ナウカの劇団員はムーバーにスピーカー、楽器演奏に加え、照明などの裏方もこなせなくてはならないから、本当にたいへんだ。

演出は、祝祭的な楽しい気分を盛り上げるもので、なかなか見事だった。ただし中盤を過ぎた辺りから、思わず「?」となるギャグが連発。それがかなり唐突で、場内にも戸惑いの空気が流れていた。次回の『ウチハソバヤジャナイ』、この躁状態のノリなら大丈夫だろうと思う反面、かなり寒いギャグに不安も募ってくる。『サロメ』で「この劇団の芝居を見ると、毎回必ず「?」と言いたくなる意味不明な演出に幾つか出くわす」と書いたが、今回の「?」大賞は、当然お寒いギャグの数々だ。

「もし『マハーバーラタ』が日本の芸能や文化に入りこんでいたら…」というコンセプトなので、衣裳はサリーなどのインド服ではなく、平安時代の貴族のような衣裳(あれって紙で作られていたのだろうか?)。ただそれも厳密なものではなく、「日本の架空の過去」といった感じだ。

そして演技だが、脇役の体の動きにちと甘さを感じる部分があったものの、主要人物は皆素晴らしい。高揚感溢れるハッピーエンドの芝居を、誰もが大いに楽しんでいるようだ。

だが何と言っても美加理である。もう美加理である。絶対に美加理である。今回は美加理さんの「声」を初めて聞けた。あの濡れた、少しハスキーな低音ヴォイス…美女は声まで美女なのだと痛感した。しかも僕の席は花道のすぐ横。美加理さんがすぐ横で演技をすることもしばしばだ。すぐ横で立って芝居している時の表情を見るには、首を90度曲げて見上げなくてはならず、少々きつかったが、体を伏せた時には、美加理さんの顔と僕の顔の最短距離は約40センチ…その顔の小ささ、まるで人形のような美しい造型に、ただ見惚れるばかり。台詞にもあったが、まさしく「子鹿の目をした女」である。
もっとも後半、かなり汗をかいたた時にふと首筋のあたりを見ると、若干実年齢が…ああ、いかんいかん。美加理姫をそんなゲスな視点で見てはいかん。美を冒涜するものには災いあるべし。あの首筋のたるみは見なかったことにしよう。

話が前後するが、今回は帝釈天などの神々(物語上はかなりの脇役)はそれぞれムーバーとスピーカーが分かれているが、他の登場人物は、ムーバー=スピーカーの言動一致が基本。語り手としてクレジットされている阿部一徳は、まさしく語り手=ナレーターとしての役割が主。ただし登場人物の台詞を話す、いつものスピーカー的役割を果たす部分もあり、どういう部分を一人一役にし、どういう部分を二人一役にしているのかは、イマイチ曖昧である(そう言えばナラ王=大高浩一の台詞は、全部阿部がやっていたんだったかな?)。ただしその区別はさほど気にはならず、いつもの人間浄瑠璃スタイルと、美加理をはじめとする役者たちの生台詞の両方が聞けて、楽しさ倍増といったところだ。

しかし全てを手放しに誉められるわけではない。幾つかの欠点もある。

まず照明がよくない。会場の関係で、ライトがなかかな思うようなところにセッティングできなかったのだろうが、非常に生っぽい感じの照明ばかり。しかもむき出しの天井や壁が見えるせいで、演劇らしい異空間の創造には失敗していたと思う。
衣裳をすべて白で統一したのも感心しない。あの生っぽい照明に白一色の衣裳で、視覚的(色彩的)には非常に単調な芝居となってしまった。このように楽しい芝居には、『天守物語』のような華やかな衣裳の方が似合うと思う。
そして初演なので、まだ練り込まれていない部分があり、説明的な描写に終始しているシーンが時々見受けられた。照明の具合で妙に目が疲れるせいもあって、中盤には多少眠気を覚えた。

特に視覚的な単調さはかなり大きな欠点なので、手放しの絶賛は出来ないが、役者たちの熱気が欠点を補い、十分見るに値する幸福感溢れる芝居になっていたと思う。


だが何と言っても最大の問題は、あの椅子である。もう一度見たいと思ったが、あの椅子にまた座るかと思うとゾッとする。やはりやめておこう。


…と思ったのだが、HPに次の日曜(楽日)に追加でマチネ公演が行われると発表されているのを発見。しかも当日のみなので、早めに行けばまた前の方で美加理さんを見られる…ということで、ついフラフラと再見することになってしまった。


                 *


11月16日(日) 14:00 東京国立博物館 東洋舘地下1階 座席=A列5番

先日とはうって変わった素晴らしい快晴。しかも春のような暖かさ。室内に入るのが馬鹿らしくなるような陽気である。上野に行くこと自体滅多にないのだが、こんな良い天気の昼間に行くことなど、さらに珍しい。
行ってみてビックリ。すごい人と、「平和」を絵に描いたような数々の光景。大勢の人出は新宿や渋谷でいつも見ているが、あのような公園でくつろぐ人々をたくさん見たのは、あまりにも久し振り。そして真昼の陽光がとにかく美しい。ただ歩いているだけで、新鮮な感動を覚える。陽気のいい春にまた来てみようと、固く決意する。

12時半近くに博物館の入り口に到着したが、まだ劇団の人が来ていない。張り紙の前で待っていると、やがて劇団の人が来て、列を作ることになった。張り紙の前にいた僕は一番最初だ。
13時に博物館に入場、チケットを買うが、この時点でまだ昼食を食べていない。仕方なく東洋館に隣接したレストランでカツカレーを食べるが、こういう場所の食事がうまいはずはない。
その後東洋館の中へ。昼間なので、今回は東洋館のすべてのフロアが開いている。しかしすべて開いているとなると、これは20分や30分で見るには、とても足りない広さ。仕方なく、書や陶器などの地味なものは飛ばして、彫像などを中心にせかせかと見て歩く。ミイラを見たのは久し振りだったのでちと感動。

さて、今回はA列の5番。花道から少し離れたが、確かに視覚的には、ここが舞台の真正面になるようだ。と言っても、後ろの方にも花道や舞台があったりするので、真正面ということにはあまり意味がないのだが。
当日券のみの追加公演だというのに、客席は満員だ。ク・ナウカを見に来る観客の動向やキャラクターは、未だによく把握できない。そう言えば、列ですぐ後ろに並んでいたカップルはニール・ヤングのライヴの話をしていた。僕も前日見に行っていたのだが、ニール・ヤングのライヴとク・ナウカの『マハーバーラタ』を同じ日程で見に行く人間が自分以外にもいたのかと思うと、非常に奇妙な気分になる。

芝居の内容自体は前回とほとんど変わらないが、脇役の演技が前よりスムーズになったようだ。それと前回はちょうど100分程度だったが、今回は、前回なかった再度のアンコールを抜きにしても10分ほど長くなっている。追加されたシーンはないし、特に前回より展開がゆったりした印象もないのだが、多分見せ場となる芝居の間が少しずつ長くなっているのだろう。

美加理さんは相変わらず素晴らしい。阿部一徳の語りもさらに朗々と響き渡る。この日は、夜にもう一度公演が行われるので、多少力をセーブしてくるかと思ったが、そんなことは全くなかった。他の役者はまだしも、阿部一徳の声の強靱さには恐れ入る他ない。

それにしても最後の大団円は盛り上がる。室外の明るい雰囲気に影響されたのか、前回以上の盛り上がりを見せていた。

だが椅子はやはり最悪。これ以上ないほど最悪。この日は1時間を過ぎたところで急激に尻が痛くなり、仕舞いには冷や汗が出てきた。『サロメ』の時の椅子が天国に思えるほどだ。こんな楽しい芝居を、なぜこんなひどい椅子で、苦痛に耐えながら見なくてはならないのか。頼むからもう少し見る側の立場に立って会場のセッティングを考えて欲しい。


16時前に終演。すべてをキラキラと輝かせていた、あの美しい陽光はなくなっていたが、まだ十分に心地よい陽気だ。本当なら、そのまま博物館を見るか、西洋美術館のレンブラント展を見たかったのだが、すぐ池袋に移動して、勝新太郎特集の『座頭市物語』『悪名』を見なくてはならない。仕方なく西洋美術館の庭にあるロダンの彫刻だけ眺めて、池袋に向かう。そう言えば3月の『ウチハソバヤジャナイ』は池袋の芸術劇場か。不安もあるが楽しみである。


今年の春から小劇場の芝居に凝って、いろいろな劇団を見てみたが、映画では絶対得られぬ楽しみを味わうことが出来て、毎回欠かさず見る必要があるのは、結局のところク・ナウカと少年王者舘だけではないのか。この二つだけあれば、人生やっていけるよな…と思う今日この頃である。


(2003年11月初出)

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