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03/11/2005

【映画】『おもちゃ』短評

前評判は良かったものの、個人的にそれほど大きな期待を抱いていたわけではないし、見終わった後も、幾つかの不満があって釈然としないものが残った。決して全面的に認めたわけではないのだが…それでもこれほど見事な作品を絶賛せずにいられようか。

ストーリー自体は特に何と言うこともない。しかしその単純な物語の中に塗り込められた繊細な感情のやり取り、そしてむせ返るような爛熟の美には、思わず震えが来る。木村大作(撮影)/安藤清人(照明)コンビの職人技は、まさしくプロフェッショナルの仕事。日本映画の至宝と言いたい素晴らしさだ(にも関わらず、プログラムには技術系スタッフの紹介が全く載っていない)。

この作品に描かれた日本的な「美」はあくまでも「架空の美」だ。いくら今から40年前の話でも、京都の花街にあれほどの美が溢れ返っていたとは思えない。一人の少女の水揚げをあそこまで仰々しく描くのも、ある意味滑稽ですらある。そんなことは百も承知の上で、製作者たちはあえて「架空の美」をスクリーンに描きだしたのだろう。道徳性とは何の関係もない、徹底的に無意味な「美」。生産性や合理性からはほど遠い、消費の中からしか生まれてこない「美」。彼らはそれをスクリーンの上に残しておきたかったに違いない。

話題の新人宮本真希が素晴らしい。とりわけ水揚げの直前に、ほのかな憧れを抱いていた青年の姿を影から覗きに行くシーンなど、その表情だけですべての思いを語りきってしまう。あの時に彼女が流した涙がリアリティを持っていればこそ、水揚げシーンでの赤子のような裸と、自らの運命をすべて受け入れ、肯定したかのような表情、そして「香の匂いに酔うてしまったようどす」という台詞が見る者の胸を打つのだ。
だがそれ以上に素晴らしいと思ったのは女将役の富司純子。この人があの「藤純子」さんだというのは、パンフを読んで初めて知った。彼女の老け具合はあまりにも素晴らしすぎる。明らかに初老に差し掛かった年齢でありながら、その端々に匂い立つ女の薫り。ほっそりと美しい首筋と、そこにしっかりと刻み込まれた数十年の歳月… 彼女の絶妙な肌のたるみ具合(笑)と、宮本真希の赤ん坊のようにつるつるした無垢な肌…その対比の何とドラマチックで感動的なことよ! こういう部分に感動できない人間は、もう映画など見ないでよろしい。来年の賞レースでは、新人賞(宮本真希)のみならず、富司純子の助演女優賞総なめもまず間違いないだろう。

最大の欠点は、ラストの字幕。あれはまったく不必要だと思う。そもそもあの物語の後も、昭和は30年あまり続いているではないか。時々現代(1998年)の風景がそのまま映ったりすることとあわせて、はっきりした演出意図はあったのだと思うが、雑誌の批評文や他の人の感想などを読んでみても、その意図は必ずしもうまく伝わっていないようだ(ちなみに新藤兼人の元のシナリオに、あのような部分はない)。

だがそのような傷も、それ以外の数え切れぬ美点を前にしては、致命的な問題とはなりえない。これは間違いなく本年度の代表的傑作に数えられるべき作品だ。


(1999年2月初出/2001年1月改訂)

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