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03/12/2005

【音楽】コートニー・パインを聴け!

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先週土曜日(1999年3月6日)にブルーノートで見たライヴがあまりにも素晴らしかったので、思わずこんなものを書こうと思い立った。彼のライヴを見るのは今度で5回目だが、今年はとりわけ凄い! 最初から最後まで非の打ちどころがない、最高に楽しいライヴだった。


以下は彼の名前などまったく知らない人たちへの推薦文のようなもの。


【コートニー・パイン COURTNEY PINE】


サックス・プレイヤー。1964年生まれのジャマイカ系イギリス人。あらゆるジャンルを含め、バリバリの現役としては、僕の最も愛するミュージシャンだ。

一応ジャンルとしてはジャズ・ミュージシャンということになっている。それ自体は間違いではないのだが、彼の幅広い音楽性と貪欲なまでの実験性は、とても古い意味での「ジャズ」という言葉で捉えきれるものではない。ジャズ、R&B、ブルース、ヒップホップ、ファンク、レゲエ、スカ…それらの音楽を全て取り込んだ上で作り出される彼独自の音楽は、まさしく総合的な意味での「ブラック・ミュージック」。あるいは彼自身が言うところの「モダン・デイ・ジャズ」だ。

ジャマイカ系のイギリス人という、ジャズ・ミュージシャンとしては異色の出自が、彼のユニークな音楽性の基盤にあることは間違いない。特にレゲエ(中でもボブ・マーリィ)の影響は、音楽的にも精神的にもかなり強いようで、正面からレゲエに挑んだむ野心作『クローサー・トゥ・ホーム』を作ったり、ボブ・マーリィへのトリビュート・アルバム『ONE LOVE』をプロデュースしたりしている。

そのクロスオーバーな音楽性からすると意外な感じもするが、ロック/ポップス系ミュージシャンとの共演は少ない。昔はソウルIIソウルやレゲエ・フィルハーモニック・オーケストラとの共演が有名だったが、今ではこれらのアーティストの名前を知っている人自体少ないような気がする(笑)。それ以外ではやはりミック・ジャガー。『ワンダーリング・スピリット』の2曲目、シングルにもなった「スウィート・シング」の中でサックスを吹いており、長めのソロも聴かせている。見たことはないが、プロモ・ビデオにも登場して、ミックと絡んでいるそうだ。


彼の最大の魅力は、正統派のジャズを完全に咀嚼した上で、他の音楽をどんどん自分の音楽に取り入れていくところにある。しかもその結果生まれてきた音楽が、決して頭でっかちで実験的なものではなく、ひたすら「楽しい」音楽になっている点が何よりも素晴らしい。

サックス・プレイヤーとしては、明らかにコルトレーンを出発点としているようだが(ほとんどのサックス・プレイヤーはそうだけど)、リズムは常にダンサブル。最近のアルバムは、ヴォーカルの入ったナンバーも必ず何曲か入っている。つまり彼はモダンジャズを基本としながらも、モダンジャズが進化する過程で切り捨ててきた「歌」と「踊り」の要素を、再び自らの音楽に取り入れようとしているわけだ。
ジャズが「歌」と「踊り」を切り捨て、プレイヤーのアドリブを最大限に重視することで、より複雑かつアーティスティックな音楽に進化したことは歴史的事実だ。だがそうやってルーツミュージックとの絆を断ちきったことで、音楽としての生命力が次第に先細りとなり、やがて袋小路に入り込んでしまったということも、今では一般的な認識になりつつある。

賢明なるマイルスは60年代の終わりにすでにそれを予感し、『ビッチェズ・ブリュー』から『パンゲア』へと至る、ズブズブでグネグネでドロドロの、どす黒いグルーヴに満ちたブラックミュージックを作り上げたが、志半ばで一時引退せざるをえなかった…
もっと最近ではスティーブ・コールマンの一派、いわゆるM-BASE派も、ファンクを中心に様々なブラック・ミュージックの要素を取り入れていた。だが正直なところ、彼らの音楽は妙に理屈っぽい感じがして、どうも聴いていて楽しくない(最近のアルバムはかなりいいらしいが、聴いていないのでわからん)。

モダン・ジャズの高度な演奏法、「歌」と「踊り(ダンサブルなりズム)」が持つ原初的な生命力、そして様々な音楽との融合から生まれる新鮮さ…この3つを「聴いて楽しい音楽」として昇華している点で、現在コートニーの右に出る者はいないだろう。音楽性や奏法こそまったく違うものの、「黒人のルーツへの回帰→新たなブラック・ミュージックとしてのジャズの再創造」という仕事を推し進めている点で、彼こそマイルスの遺志を最もよく受け継いでいるミュージシャンなのかもしれない。


では、お薦めのアルバム紹介。

まず今までに8枚のリーダー・アルバムと1枚のリミックス・アルバムを出しているが、この内初期の4枚『JOURNEY TO THE URGE WITHIN』('86)『DESTINY'S SONG』('88)『THE VISIONS TALE』('89)『WITHIN THE REALMS OF OUR DREAMS』('91)は割愛。なぜかと言うと、『WITHIN THE REALMS OF OUR DREAMS』を除く3枚は、「普通のジャズ・アルバム」としては決して悪くないのだが、まだオーソドックスなジャズのスタイルに捕らわれていて、真のコートニーらしさが出ていないから。やはりコートニーが一皮も二皮もむけたのは、『クローサー・トゥ・ホーム』を出して以後のことだと思う。
『WITHIN THE REALMS OF OUR DREAMS』は『クローサー・トゥ・ホーム』の最初のヴァージョン(後述)より後に出ているし、アフリカ音楽などの要素も入り込んでいてかなり面白いのだが、この路線なら『トゥ・ジ・アイズ・オブ・クリエイション』の方を薦めたいから。それにこの4枚は今、日本盤が出ていないし(輸入盤は大型店ならどこでも簡単に手に入る)。


と言うわけで、それ以外の推薦アルバムを紹介。


『クローサー・トゥ・ホーム』CLOSER TO HOME('90/'92)PHCR-1739

このアルバムが最初に出たのは90年のこと。ところがコートニーはその出来が気に入らなかったのか、92年になってかなりの部分を作り直した新しいヴァージョンを再発してきた。現在ではこちらのリミックス盤しか手に入らない。僕は古い方は聴いてないのだが、新しい方が圧倒的に良いとの評判なので、特に問題はないだろう。

一言で言えば「名盤」。「無人島に10枚のCDを持って行くなら何を選ぶか?」と問われれば、その中の1枚に確実に入るアルバムだ。

先ほどもちらりと書いたように、コートニーによるレゲエ・アルバム。僕はレゲエという音楽自体は、特別好きというわけでもないが(決して嫌いではない)、このアルバムは最高だ。全体としては紛れもなくレゲエなのだが、その語り口やノリには明らかにジャズの血が混じっていて、良い意味でとても洗練された音楽になっている。クラブのDJに大人気だというのも当然だろう。これならどの曲をどう切り出しても、踊り出したくなるというものだ。特に「ゲット・ビジィ」「ブルー・タイド」「アイ・ドント・ケア」と続く最初の3曲は強力そのもの。

それ以外の目玉といえば、何と言ってもキャロル・トンプソンのヴォーカルをフィーチュアーした超人気曲「アイム・スティル・ウェイティング」だ。ライヴでこれが始まると、観客が喜ぶこと、喜ぶこと…トンプソンのヴォーカルも素晴らしいが、最後に歌メロをなぞるソプラノサックスが、泣きたくなるほど美しい。
そしてもう一つの目玉は、リミックス盤のボーナストラックとして最後に収録されたライヴ曲「コートニー・ブロウズ」。これ以上かっこいいジャズ、いや、これ以上かっこいい音楽など、そうそうあるものじゃない。まさに昇天もの。

と言うわけで、これは大推薦アルバム。

『トゥ・ジ・アイズ・オブ・クリエイション』('92)PHCR-719
TO THE EYES OF CREATION

『クローサー・トゥ・ホーム』と並ぶ大推薦アルバム。『クローサー・トゥ・ホーム』はジャズ・アルバムと言うよりもレゲエ・アルバムだから、ジャズ・アルバムの中ではこれが現時点での最高傑作だろう。

一言で言えば「音楽による世界一周の旅」。ジャズをベースにしつつ、イギリスのクラブ・ミュージック、レゲエ、スカ、アフリカ、はてはインドまで飛び出してくる音楽の宝石箱。最初は、そのあまりにも無節操な音楽性に、とっちらかった印象を受けたのだが、先ほど書いた「音楽による世界一周の旅」というコンセプトを理解したとき、初めてアルバムとしての楽しさがわかってきた。その後ここまで様々なスタイルを一枚に詰め込んだアルバムは作っていないが、この作品があったからこそ、今のコートニーがあるのだ。

最大の聴きものは、何と言っても「リデンプション・ソング」。仮に他の曲がすべて気に入らなかったとしても、この1曲だけのために、このアルバムを買うべきだ。僕はこの1曲のためにアルバム10枚分の金を払っても、まったく惜しくはない。
言うまでもなく、これはボブ・マーリィのあの名曲のカヴァー。遺作『ライジング』の最後に収められた、まるで遺言のようなギター弾き語りのナンバーだ。しかしこのコートニーの演奏は、オリジナルの何百倍も素晴らしい。最初の一音から最後の一音まで余すところなく美しい。ヴォーカルが入ってないにも関わらず、あの歌が持つメッセージを音だけで表現しきっている。それもさらに美しく、さらに優しく、さらに感動的に…

それに続く聞き物は、最高に楽しいスカタライツのカヴァー「イースタン・スタンダード・タイム」、そしてタイトル通りの優しさをもつ「ヒーリング・ソング」だ。しかしこのアルバムは、先ほども書いたように、アルバム一枚を一つのコンセプトとして聴いたとき、初めてその真価がわかる作品だと思う。

このアルバムと『クローサー・トゥ・ホーム』のリミックス盤は共に1992年の発売。この年、コートニーは間違いなく音楽シーンの頂点にいたのだ。

『モダン・デイ・ジャズ・ストーリーズ』('95)PHCR-1382
MODERN DAY JAZZ STORIES

前作であらゆる音楽スタイルを試してみたコートニーが、ジャズとヒップホップの融合に的を絞って作り上げた作品。ただしヒップホップと言っても、ラップは入らず、主に打ち込みやサンプリングといったサウンド面での応用だ。
特にDJポゴの操るターンテーブルが全編にフィーチュアーされている。ただしライヴにおけるあの神業的ターンテーブル・ソロを見てしまった後では、この程度では物足りない気分になるのも確か。初めてコートニーのライヴであれを見て呆然とし、「ターンテーブルって、紛れもない楽器だったんだ」と感動した時のことは今でも忘れられない。先日のライヴでは、その技がさらにレベルアップしているのだから、空恐ろしくなる。

「ジャズとヒップホップの融合」というアイディア自体は必ずしも珍しくない。例えばグレッグ・オズビーやゲイリー・トーマスも、ラップを大々的にフィーチュアーしたアルバムを作っている。しかしこれが、見事に面白くない。ア・トライブ・コールド・クエストなど、ラップのミュージシャンがジャズをバックトラックに使ったものには面白いものがあるのに、どうしてその逆は、かくもつまらないのか…実に不思議だ。
その点コートニーは、彼らと同じ轍を踏むことなく、実に面白いアルバムを作り上げている。前2作に比べるとどうしても地味な印象は拭えないが、このアルバムが現在のコートニーの音楽スタイルのスタンダードとなっていることは間違いない。ストレートなジャズが好きな人は、まずこのアルバムから入ることをお薦めする。ただしこのアルバムだけでは、コートニーの真価がわからないような気もするが…

最大の聞き物は、今やライヴのメイン・ナンバーとなっている「ザ・37th・チェンバー」。そしてコートニーと同じく、新たなジャズを創造し続けている最高のヴォーカリスト=カサンドラ・ウィルソンが加わった「ドント・エクスプレイン」「アイヴ・ノウン・リヴァーズ」だろう。「ザ・37th・チェンバー」はライナーによればジョー・ザヴィヌルの曲に似ているそうだが、先日のライヴでは、コード進行がカーティス・メイフィールドの「ピープル・ゲット・レディ」に似ていることを発見した。

『アンダーグラウンド』UNDERGROUND('97)PHCR-1542

現時点での最新オリジナル・アルバム。基本的には前作の延長線上にあるが、今度はもっと音楽性の幅を広げ、ドラムン・ベースなども取り入れている。しかし以前に比べると様々な音楽要素が完全に融合しており、ジャズでもヒップホップでもドラムン・ベースでもない、コートニー・パイン・ミュージックとしか言いようのない音楽を作り出している。これは彼にとって一つの到達点だろう。

ただ完成度は高いのだが、その分どことなくこじんまりまとまった印象を受けるのも事実。『クローサー・トゥ・ホーム』や『トゥ・ジ・アイズ・オブ・クリエイション』にあった、大らかで野放図なエネルギーはあまり感じられない。そう言えばこのアルバムを出した後のライヴは、どうも試行錯誤を繰り返しているような感じで、今ひとつ煮え切らないものだった。

と言っても単体で見れば、実に洗練され、完成されたアルバムだと思う。ジャズと言うよりも、クラブ・ミュージックの文脈で聴いた方が、その良さがわかることだろう。彼の作品中最も「お洒落なアルバム」だと思う。

聞き物は2ヴァージョン入っているポップなナンバー「チルドレン・オブ・ザ・サン」。「モダン・デイ。ジャズ」。そしてジェリーサのボーカルをフィーチュアーした「トライン・タイムス」(ダニー・ハサウェイのナンバー)といったところか。

『アナザー・ストーリー』ANOTHER STORY('98)PHCR-1612

『モダン・デイ・ジャズ・ストーリーズ』と『アンダーグラウンド』のナンバーのリミックス集。その多くはドラムン・ベース・スタイルのリミックスで、コートニーがドラムン・ベースに強い関心を抱いていたことがよくわかる。4 HEROやロニ・サイズといったドラムン・ベース界のスーパースターたちもリミックスに参加している。

選曲されたのは上記2枚のアルバムだけだし、同じ曲が何回も出てくるので(ただしリミックスの違いによってまったく印象は異なる)、いきなりこれから入るのは薦めないが、アルバムとしては非常によく出来ていると思う。特にこの手のリミックス集にありがちな散漫な印象がまっくたないことに驚かされる。どんなリミックスにも対応し、様々な表情を見せるコートニー・ミュージックの多面性、それにも関わらず本質的な部分は決して失われない強靱な生命力が感じられる作品だ。

そんなわけでお薦め度を整理すると…


☆万人にお勧め

『クローサー・トゥ・ホーム』
『トゥ・ジ・アイズ・オブ・クリエイション』

出来ればこの2枚は同時に買って欲しい


☆ストレートなジャズが好きな方に

『モダン・デイ・ジャズ・ストーリーズ』

これが気に入ったらぜひ上記の2枚も


☆クラブ・ミュージックが好きな方に

『アンダーグラウンド』
『アナザー・ストーリー』


…といったところか。


「未来のジャズ」を創造し続ける素晴らしきアーティスト、コートニー・パインの音楽にぜひ一度触れてみてほしい。


(1999年3月初出/2005年2月改訂)

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Comments

お返事が遅れました。
トラックバックありがとうございました。
これからも定期的に見に来てやってください

Posted by: イツロー | 03/22/2005 at 16:46

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