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03/01/2005

【映画】『アポロンの地獄』短評

『王女メディア』と同じギリシャ悲劇(作者はソフォクレス)だが、
『オイディプス』はさすがにストーリーを知っているし、以前
芝居(蜷川幸雄演出/平幹二郎主演/築地本願寺での公演)も見た
ことがある。こちらは余裕で足切り試験に合格だ(笑)。

『王女メディア』に比べると、こちらは実にわかりやすく、しか
も非常に面白い。なるほど、プログラムにあったパゾリーニの
言葉通り、『王女メディア』もこの作品もほとんど同じ世界観に
基づいた、限りなく同じ映画だ。しかしストーリーを知っているか
否かという前提条件もさることながら、本作の方が映画としての
力は圧倒的に上だと思う。こうしてみると、『王女メディア』は
ちょっと考え過ぎというか、作為に走り過ぎだったのではなかろ
うか。

特にカメラワークが『王女メディア』よりも格段に映画的だ。
『王女メディア』では、あのような風景の中でなぜカメラが頑なに
横移動や横パンを拒否するのか不思議でしかたなかったのだが、
こちらではちゃんと横に動いていくれてほっとした(笑)。もちろん
『王女メディア』のあの欲求不満のたまるカメラワークにも、きっと
何らかの演出意図はあったのだろうが、残念ながら僕にはそれが理解
できなかった。

ある意味ではわかりきったお話を延々とやっているわけだが、
それでも全く退屈しないのは、作家パゾリーニの強い「意志」が
映画の全編にみなぎっているからだ。この映画のオイディプスは、
悲劇の人物と言うにはあまりにも戦闘的だ。以前見た芝居のオイ
ディプスは、もっと「運命に翻弄される人間」であり、作品全体
もある意味では「人智の及ばぬ暗黒の力」が主役だったような気
がする。だがパゾリーニの描くオイディプスは、暗黒の力に屈する
ことを最後まで拒否している。この映画にオイディプスの子供たちが
出てこないのは(芝居では、この子供たちがクライマックスとも
言うべき泣かせどころを作っていた)、オイディプスを「肉親の情愛」
といった人間的な救済に帰着させず、ただ一人運命に立ち向かわせ
ようとするパゾリーニの意図だろう。

パゾリーニはこの作品について「極めて自伝的な作品だ」とはっきり
語っている。オイディプス同様、母親を愛し、父親を憎み、その上
徹底した無神論者でゲイだったパゾリーニ。彼は自らの分身である
オイディプスを、ドラマの中で救済することも突き放すこともせず、
現代に解き放って、地獄の彷徨を続けさせる。現代に現れたオイディ
プスが行き着く先は、冒頭に出てきた草原。それは他ならぬパゾリー
ニ自身の人生へとつながる場所なのだ。

『王女メディア』は、見ている間中「何だかセルゲイ・パラジャ
ーノフみたいだなあ」と思ったのだが、こちらは「何だか溝口健
二みたいだなあ」と思った。あとでプログラムを読んで、パゾリ
ーニが溝口の大ファンであることを知り、大いに納得。登場
人物を突き放したような語り口や、幾つかの画面の作り方など、
明らかに溝口の影響だろう。眉毛を完全に剃ったシルバーナ・マ
ンガーノも、まるで『雨月物語』の登場人物のようだ。そしてラ
ストのオイディプスの姿は、どこか『西鶴一代女』のラストの
お春に似ていなくもない。

…と、たいへん面白かったのだが、見終わったときには尋常なら
ざる疲労を感じた。決して難解な作品ではないのだが、104分
間、延々映画との真剣勝負をしていたような気分。生半可な気分
では決して画面に対峙できない作品だ。


それにしても、オイディプス役の俳優がイアン・ブラウン(元スト
ーン・ローゼズのヴォーカリスト)にやたらよく似ていて、いつか
歌い出すのではないかと心配で心配で…(笑)


(1999年5月初出/2001年1月改訂)

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