【映画】『ストレイト・ストーリー』短評
昨年初めて見たときには、少しあっさりしすぎではないかという印象も
覚えた(東京ファンタスティック映画祭という場も、この映画にはふさわ
しくなかった)。ところがあらためてロードショーで再見してみると、
一場面一場面が、実に気持ちよく心のひだに染みこんでくる。2回目の
方がより強い感動を覚えた。
主演のリチャード・ファーンズワースも素晴らしいが、最後に出てくる
ハリー・ディーン・スタントンのわずかな台詞が泣かせる。酒場でスト
レイトの話し相手となる老人や、彼の世話をする中年男性など、脇役も
皆素晴らしい。
淡々としているくせに、やはりどこかデヴィッド・リンチな演出(笑)、
叙情的でありながら決してセンチメンタルになりすぎないバダラメン
ティの音楽も秀逸だが、中でも特筆に値するのはフレディ・フランシスの
撮影だ。『天国の日々』や『ギルバート・グレイプ』を彷彿とさせる、
アメリカの美しい片田舎の風景。しかもそれがトラクターのスピードを
模した緩やかな横移動で表現されるとき、今までに味わったことのない
不思議な感動がこみ上げてくる。
このような映画に対し、物語的な見地からどうのこうのとケチを付けても
仕方ない。僕にとっては、「映画を見る」と言うよりも、「心地よい音楽
を聴く」のと同じような感覚で、これから何度も繰り返し見る映画の1本
となることだろう。
次は秋に見たい。出来ればレイト・ショーがいい。劇場を出たとき、思わず
夜空を見上げることが出来るから。そこに、映画のラストと同じような
美しい星空が広がっていたら、とても素敵だろう。
(2000年5月初出/2001年1月改訂)
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