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03/01/2005

【音楽】追悼 カーティス・メイフィールド

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カーティス・メイフィールド…ソウル・ミュージック史上最高の天才と言っても過言ではないアーテイストが、1999年12月26日にこの世を去った。享年57歳。死因は明らかにされていないが、どうやらしばらく前から病気を患っていたらしい。

折に触れて書いてきたが、僕にとってはすべての音楽ジャンル中1,2を争う、真に敬愛するアーティストだった。だがその思いを逐一書いていくことなど今はとても出来ない。またカーティスの音楽やメッセージが、その後のポピュラー・ミュージックの歴史に与えた絶大な影響についても、本気で書こうとしたら本が一冊出来てしまうほどなので、今はとても無理だ。その一端は錚々たるアーテイストたちがカーティスの歌をカヴァーしたトリビュート盤『A TRIBUTE TO CURTIS MAYFIELD〜ALL MEN ARE BROTHERS』で知ることが出来るが、そんなものは文字通り「ほんの一端」に過ぎない。

今僕に出来ることは、彼が20世紀に残してくれた素晴らしい遺産にあらためて耳を傾けること、その素晴らしさを少しずつでも他の人に伝えていくことだけだ。


幸い昨年から今年にかけて、ソロ・アルバムの大部分がビクター・エンタテインメントから再発された。ラストアルバムとなった'96年の復活盤『ニュー・ワールド・オーダー』もまだワーナーから出ているはずだ。輸入盤屋に行けば山のようにコンピレーションが並んでいる(笑)。いずれにせよ僕が初めてカーティスにはまった8年ほど前より、アルバムの入手は遙かに容易になっている。日本盤でも値段はわずか1995円(税込み)だ。

ただしオリジナル・アルバムだけでも20枚以上あるし、70年代後半以降のアルバムには、正直なところ首をひねるものも幾つか含まれている。

もし試しに聴いてみるというなら、最初の1枚には、最もポピュラリティの高い『スーパーフライ』をお薦めしよう。同名映画のサントラとして作られた作品だが、1枚のアルバムとして見事なトータリティを持っている(プリンスの『パレード』『パープル・レイン』のような形を想像してもらえばいい)。しかも悶絶ものの名曲揃い。特に、ストリングスとコンガの響きがドラマチックな「リトル・チャイルド・ランニング・ワイルド」から、異常なほどスリリングでかっこいい間を持つ「プッシャーマン」、そして何人たりとも寄せ付けぬ名曲中の名曲「フレディーズ・デッド」へと至る最初3曲の流れは凄すぎる。カーティス・ミュージックの最もスリリングな部分と、華やかなアレンジが最高の調和を見せた、美しすぎる15分13秒。その後もラストのタイトル曲「スーパーフライ」に至るまで一点の澱みもなし。文句なしの名盤。

しかしカーティスの最高傑作と言えば、やはり『ゼアズ・ノー・プレイス・ライク・アメリカ・トゥデイ』に止めを刺すことになる。他のアルバムに比べると非常に地味な作品なので、最初は取っつきが悪いかもしれない。僕もこのアルバムの真価を理解したのは、かなり後になってのことだ。
だがあの粘っこいリズム、むせび泣くようなギターの絡み合いが生み出すゾクゾクするような官能美、そしてシンプルな音の隙間から生み出される凄まじい緊張感に一度魅了されてしまったら、もう決してカーティス・ミュージックから逃れることは出来ない。何の派手さも媚びもない。だが音楽家カーティス・メイフィールドの最も純粋な核が結晶したこの大名盤、全ての鎧を脱いで、耳ではなく魂で聴いて欲しい。

他にもカーティス最強のファンク・ナンバー「フューチャー・ショック」(ハービー・ハンコックのカバーは原曲の10分の1も良くない)を含む『バック・トゥ・ザ・ワールド』、「ムーブ・オン・アップ」他の名曲を含むデビュー盤『カーティス』、「ピープル・ゲット・レディ」(やはり一番多くの人に知られているのはこの曲だろう)などインプレッションズ時代のナンバーも数多く披露される『カーティス・ライヴ!』、ドラマチックな「ビューティフル・ブラザー・オブ・マイン」をはじめ多くの名曲を含む『ルーツ』、カーティスの最も美しいバラードかもしれない「トゥ・ビ・インヴィジブル」を含む『スウィート・エクソシスト』など、'70年のソロ・デビュー・アルバム『カーティス』から'75年の『ゼアズ・ノー・プレイス・ライク・アメリカ・トゥデイ』までは、どれを聴いてもまず間違いないと言っておこう。

『ゼアズ・ノー・プレイス・ライク・アメリカ・トゥデイ』で頂点を極めてしまったせいか、残念ながらそれ以降のアルバムは明らかに緊張感が薄れていく。それでも、ファンキーなグルーヴに満ちた名曲「トリッピン・アウト」(山下達郎がイントロをぱくったことでも有名)を含み、クラブ系のリスナーから絶大な評価を受けている『サムシング・トゥ・ビリーヴ・イン』などは必聴。

そして'90年の事故(コンサート中にステージの照明器具が彼の上に落下した)で半身不随の身となりながら、誰もが不可能と思った奇跡の復活を遂げた『ニュー・ワールド・オーダー』は、'70年代のような研ぎ澄まされた緊張感こそ望めぬものの、カーティスのもう一つの魅力である慈愛が極限の輝きを放つ名盤。「ジャスト・ア・リトル・ビット・オブ・ラヴ」などは、'70年代後半以降ダンス・ミュージックへの転換という試行錯誤を繰り返してきた彼が最後に生み出した、ダンス・チューンの傑作と言っていい。そしてカーティスの復活をアレサ・フランクリンが祝福するかのような「バック・トウ・リビング・アゲイン」の人間的なぬくもりはどうだ。最後のアレサの一言「Go Ahead,Mayfield」に、一体どれだけの人間が涙したことか。


少し長くなったが、いくら言葉を重ねても、カーティスの魅力、カーティスの偉大さは、僕などには決して語り尽くせない。それを語れるのは、唯一カーティスの音楽だけだ。

もしこの文章なり、いずれあちこちに出るであろう数々の追悼文(それらはきっと熱烈なものになるはずだ)によって、多少なりともカーティスに興味を持ったなら、まず彼の音楽に耳を傾けて欲しい。彼のメッセージに触れて欲しい。

そしてカーティス・メイフィールドという人物がこの世に残した偉大な足跡について、なにがしかの感慨を持ち得たなら、その時でいいから、こう言って欲しい。

「いい音楽をありがとう、お疲れさまでした」。

僕はその言葉を今夜、言おう。

ありがとう、カーティス。

    自分がみじめに思えたら
    そこからはい上がるように努力しろ
    それを忘れなければ
    誰もお前の心にあるものは奪えない
    心の安らぎが欲しいなら
    つまらぬ喧嘩はやめておけ
    何をしても楽しかったあの時代
    子供の頃を思い出せ

    雨が降り 雪が降り
    夏 冬 秋が過ぎてゆく
    もう一度人生をやり直そう
    もう一度人生を生き直そう
    もう一度自分の人生を

    「BACK TO LIVING AGAIN」
     from the album『NEW WORLD ORDER』


(1999年12月初出/2005年2月改訂)

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