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03/02/2005

【映画】『ナビィの恋』浜辺で見つけた宝物

ある意味ものすごく退屈な作品である。

見終わってから思い返してみるとわかる通り、ストーリーそのもの
は極めて単純。30分の短篇として描いても十分成立するような話
だ。つまり映画の大部分はストーリーに直接関係のない描写ばかり。
最初はそののんびりした展開にいささか当惑してしまった。

ところがラストにいたって、「え? どうしたんだ、オレ?」と
自分で戸惑うような熱い感動が胸にこみ上げてくる。一体自分が
この映画の何に感動しているのかわからないことが、その戸惑いを
よけい増幅させる。マイケル・ナイマン作曲の美しすぎるテーマ曲
「RAFUTI」が流れる中、出演者をひとりひとり紹介するエンドクレ
ジットに至っては、もはや落涙寸前。せめてもう少し空いていれば、
遠慮なく涙を流せたのに…

お話は、本土から故郷の粟国島(あぐにじま)に帰ってきた奈々子が、
祖母ナビィと60年前の恋人のおとぎ話のような恋を目撃すると
いうもの。やがて祖母の恋の行方は、そのまま奈々子自身の生き方
へと重なっていく。話は単純、何のひねりもない。2つの三角関係は、
ドロドロする間もなく、あっけないほどの解決を見ることになる。
ある意味神話に通じるような寓意性を持ってはいるが、それだけに
「ドラマ」として見ればシンプルそのものだ。

にも関わらず上映時間が92分あるのは、全編がミュージカル・スタ
イルになっていて、延々と歌と演奏が続くから。まるでマサラ・ム
ービーだ(笑)。音楽はもちろん三線を伴奏とした沖縄民謡なのだが、
これがいい。実にいい。ライ・クーダーやマイケル・ナイマンをも
虜にした沖縄音楽の魅力を存分に味わうことが出来る。

音楽と共にこの映画の魅力の大部分を占めるのは、出演者の魅力だ。
奈々子役の西田尚美に対しては、これまで「何でこんなブスが映画で
主役をはれるんだ」などと思っていたが(^^;)、この作品を見て、彼女
の持つナチュラルな魅力を初めて理解することができた。とりわけ
ラスト近くで見られる彼女の花嫁姿は、絶句するほど魅力的だ。
だがそれ以上に素晴らしいのは、ナビィ役の平良とみさんと、その
旦那役の登川誠仁さん。特に凄いのは登川誠仁さん! 本職は沖縄民謡
の歌い手(沖縄のジミ・ヘンドリックスと言われてるそうだ(^^;)らしい
が、このキャラクターは演技なのか? 地なのか? まさに実写版トト
ロ(???)とでも呼べそうな魅力で、映画を自分の色に染め上げてしま
う。役柄的に言えば主役とは言えないのに、この映画を思い出すとき、
誰もがこの人のことを真っ先に思い浮かべることだろう。いや、映画
そのものを忘れてしまってもこの人のキャラクターだけは記憶に残る
ことだろう。もしこの人がいなかったら、『ナビィの恋』はまったく
別の映画になっていたに違いない。

…という具合に細部の魅力について書こうと思えば、いくらでも書い
ていけるのだが、そうやっていくら細部を埋めていっても、この映画
が与えてくれる感動、その最も本質的な部分には決してたどり着かな
い。それが実に忌々しい。

この映画の魅力は強いて言うなら、個々の人間のドラマや社会的な
要素、神話的なストーリーなどが、すべてマコンドという「土地」
そのものに集約され、最終的には「生の物語」と表現する他なくなっ
ているガルシア・マルケスの小説に例えられるかもしれない。映画で
言うなら、何でもない物語の積み重ねの中から、やはり「生の物語」
そのものが浮かび上がってくる『木靴の樹』を想起させる。
もちろんこの作品が『百年の孤独』や『木靴の樹』に匹敵するという
意味ではない。それはさすがに過大評価というものだ。だが強いて
その感動の核心を表現しようとすれば、どうしてもそのあたりの作品
を引き合いに出さずにはいられない。粟国島という土地そのものが
持つ生命力、その中で生きている人間たちの、どんなに時代が変わっ
ても繰り返されるであろう生の物語。それは既成のドラマから得られる
ものとは違う、不思議な感動をもたらしてくれる。


非常に言葉で解説しづらい作品で、推薦しようにも困ってしまうのだが、
とにかく必見。騙されたと思ってぜひ一度見て欲しい。浜辺で見つけた
宝物のような、素敵な素敵な映画だ。


(1999年12月初出/2001年1月改訂)

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