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03/05/2005

【音楽】fra-foa『宙の淵』 日本のロック史に屹立する奇跡の名盤

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日本のロックアルバムの中で、これ以上何度も聴き込んだ作品はない。

音楽的には、ニルヴァーナ直系のグランジロック。鬼才スティーヴ・アルビニが数曲のエンジニアリングを手がけ、他の曲もそれに合わせたプロデュースが行われているため、いかにもアルビニ的な、ラウドで生々しいサウンドを全編にわたって聴くことができる。

重く荒々しいリズムセクション、炸裂する轟音ギター…だがこのバンドの主役は、全ての曲の作詞・作曲を手がけている三上ちさ子のヴォーカルだ。まるで自らの魂を削り取って音にしているかのような切迫した歌声。 時には声がかすれ、音程が怪しくなることもあるが、そんな不安定さが、むしろこのアルバムに血の滴るような生命力を与えている。この時期の三上ちさ子にのみ与えられた、唯一無二の歌声だ。

ラヴソングらしいラヴソングは一曲もない。生と死、そして孤独といった根源的なテーマで貫かれた、一種のコンセプトアルバムと言ってもいいだろう。観念的になりちがちなテーマだが、それが光と影、朝と夜、月や宇宙といった、映像的で、鮮明なイメージを持つ言葉に託して歌われることで、聴く者の心にストレートに響いてくる。


冒頭のヘヴィーな3曲「真昼の秘密」「プラスチックルームと雨の庭」「夜とあさのすきまに」は、組曲のような構成になっていて、自分が今ここに生きている不安、孤独、希望が、キラキラと輝くような歌詞によって綴られていく。中でも思春期的な心の痛みをストレートな歌詞で歌い上げる「プラスチックルームと雨の庭」は屈指の名曲。

4曲目、幼い日の情景をノスタルジックに歌った「ひぐらし」で一息。この曲は「青白い月」への伏線にもなっている。

5曲目の「澄み渡る空、その向こうに僕が見たもの。」は、ライヴで最も熱狂的な盛り上がりを見せる、ファンにとっては聖歌のようなナンバー。誰もがこの曲を待ちこがれる理由は、高揚感溢れる曲調もさることながら、歌詞の素晴らしさにあるはずだ。

  いつかみんな死ぬんだってわかってれば
  こんな憎み合う事もないのかな?
  僕はただ純粋(きれい)になりたくて
  なれない自分がよく嫌になるよ

もう何百回聴いたかわからないのに、今でもこの歌詞を聴くたびに鳥肌が立つ。この救いようのない愚直さ、人一倍純粋さを求めるが故の自己嫌悪、そして避けられぬ「死」という運命から「生」を見つめ直す視点…ここにfra-foaのすべてがある。

6曲目の「君は笑う、そして静かに眠る。」は、再びヘヴィーな曲調で、死を正面から見つめる内容だが、5曲目の高揚感がグラデーションのように続いていて、天国から地獄までを含んだような壮大なナンバーになっている。

そして7曲目、幼い日に死んだ兄への思いを歌った「青白い月」の素晴らしさは筆舌に尽くしがたい。叙情的な優しさと、胸が張り裂けるような死の悲しみが交錯するドラマチックなナンバー。明らかにニルヴァーナの「ハート・シェイプト・ボックス」をパクった構成ではあるが、原曲を完全に超えている。この名盤の中でも頂点に位置する、名曲中の名曲。

デビューシングルである8曲目「月と砂漠」は、「青白い月」の透明感から一転、のたうち回るような荒々しいサウンドに満たされている。そこにあるものは、5曲目のような明るい高揚感ではなく、死という運命に絶望的な抵抗を試みる傷だらけの咆哮だ。

そして最後に来るのは、自らの生と死を宇宙的な時間の流れに委ねる「宙の淵」。だが静かな諦念を拒否するかのように、静謐な曲は、最後になって猛り狂うノイズの海と化す。


生命の躍動感と死の喪失感が、一枚のアルバムの中にこれほどドラマチックに描き出されたことが、かつてあっただろうか? 何度聴いても、冷たい朝の空気を思わせる清冽な感動で、心が満たされていく。


『宙の淵』は、fra-foaにとっても、三上ちさ子にとっても、二度と作り上げることの出来ない奇跡的な名盤だ。

だが彼らは、次作『13 leaves』で、音楽的に大きな方向転換を遂げながら、もう一枚の名盤を生み出すことになる。


(2005年2月初出)

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