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03/01/2005

【音楽】AJICO〜美しすぎる孤独 2001.2.13 赤坂BLITZ

とても開演前のBGMとは思えぬばかでかい音量で流れ続けるのは、
60年代から70年代のロックやポップス。ママス&パパスの「カリフ
ォルニア・ドリーミング」に思わずニヤリとしながら、じっと開演
を待ち続ける。
開演時間の8時を10分ほど過ぎた頃、明らかにアナログ・レコード
からの録音と思しきノイズに混じって、あの懐かしい口笛のメロディ
ーが聞こえてくる。そう、『冒険者たち』、「レティシアのテーマ」
だ。

その音楽と共に客電が落ちる。「レティシアのテーマ」がまだ流れる
中、4人のメンバーがステージに現れる。「レティシアのテーマ」から
メドレーのようにして始まったのは「Lake」。メンバーにはまったく
スポットが当たらず、顔すらほとんど判別できない。後ろを向いた
まま、あるやなしやの歌詞(英語)を呟くように、嗚咽するように
歌うUA。続いて始まったのは何と「テイク・ファイヴ」! 元は
デイヴ・ブルーベックのジャズ・ナンバーだが、ジャズというよりも
ブッカー・T&MG'Sあたりに通じるグルーヴィーな演奏でばっちり
決めていく…

言うまでもなく、こんな風にして始まったライヴが悪いはずはない。

オープニングの感動はその後もまっくた途切れることなく、どんどん
その濃密さを深めていった。ここまで一つ一つの音がリアリティを帯
び、身も心も音楽に包まれていくようなライヴは久し振りのことだ。

AJICO…UAとブランキー・ジェット・シティの浅井健一が組んだバン
ドだ。この組み合わせを最初に聞いたとき、必ずしも意外だとは思わ
なかったが、ブランキーにおいてヴォーカルとギターの両方で自らを
表現してきた浅井が、(いくらヴォーカリストとしての実力が桁違い
だとは言え)ヴォーカルを基本的にUAに譲ったことに、少々奇異の
念を覚えた。それ故AJICOはあくまでも一時的なユニットだろうと理解
していたし、二人の個性がどのようなバランスを保っているかが最大の
興味だった。

2枚のシングル「波動」「美しいこと」(←リードボーカルは浅井)を経て、
ようやく登場したアルバム『深緑』。いいアルバムだと思う。表面的な
音楽性は違うが、ミュートビートやフィッシュマンズといったバンドに
通じる美しさを持っている。だが若干の物足りなさを感じたのも確かだ。
どことなく平板な音像が最大のネックだと思ったが、それと共にUAと
浅井が互いに遠慮しあい、どちらも実力を出し切っていないような印象を
受けたのだ。

だがそのような不満はこのライヴで雲散霧消した。なぜこの二人が手を
組んだのか、なぜそれがAJICOというバンドの形を取ったのか…すべて
の答がこのライヴにあったからだ。ライヴを見たことで、それまで感じ
ていたアルバムに対する不満の多くも解消された。今聴き返してもやはり
平板な印象を免れないアルバムの音像に対し、ライヴでは出てくる音一つ
一つに強靱なリアリティがあり、魂がこもっていた(PAも驚くほどクリア
だった)。このライヴを見ずしてAJICOの核心に触れることは出来ない。


AJICOの音楽は、UAとブランキーの表現の核にあった「孤独」という
感情を、徹底的に追求したものだと思う。最近はより温かな感情表現に
重きを置いていたUA、奥底には常に孤独を抱えながらも、ロック・
バンドとしてのダイナミズムを要求され続けたブランキー(浅井)…その
二人の表現者が、もう一度内なる「孤独」に目を向け、それを水晶のよう
に美しく滑らかな表現として結晶化させたのがAJICOだ。

「孤独」には様々な表情がある。そして様々な感情を喚起する。「哀しみ」
や「恐怖」はその代表的なものだ。だがAJICOというバンドが、その音楽の
中で純粋培養したものは「美しさ」だ。孤独だけが持ちうる、冷え冷えと
するような「美しさ」だ。

このライヴを見始めて間もなく「ああ、そうだったのか」と思った。今
眼前で繰り広げられている音楽に極めてよく似たものを、自分はすでに
知っていたではないかと気がついたのだ。マイルス・デイヴィスの『カ
インド・オブ・ブルー』…「孤独」の持つ冷ややかな美しさを徹底的に
追求したマイルスのあのアルバムとAJICOの音は、間違いなく同じ地平で
鳴り響いている。
今にして思えば、なぜこの二つの共通点に気がつかなかったのか不思議
なくらいだ。そもそもタイトルからして「青」と「緑」(笑)。1曲目で
全体のテーマが提示され、その残響が少しずつ姿を変えながら全編を
支配する『深緑』の構成は、紛れもなく『カインド・オブ・ブルー』だ。
浅井がボーカルを取る数曲でその残響がかなり奥に引っ込むのに目を眩
まされたのだろうが、1曲目「深緑」から2曲目「すてきなあたしの夢」
へのつながりなど、どこで曲が変わったのかよくわからないほどだ。
「Lake」「青い鳥はいつも不満気」「メロディ」「メリーゴーランド」
「毛布もいらない」「波動」「カゲロウソング」そしてシングルの2〜3
曲目に収録されたナンバーなど、すべてが一つのテーマを巡る変奏曲では
ないか。AJICOが表現しようとしている音はこれ以上ないほど明確であり、
これらすべての曲が組曲のようになって、一つの感情、一つの美を具現化
しているのだ。

彼らが実際にマイルスを手本にしたかどうかは、さして重要な問題では
ない。AJICOのメンバーが、「孤独」という感情を彼ら自身の感性やリア
リティに基づいて形にした音楽が、結果的に、孤高の存在にも見えた『カ
インド・オブ・ブルー』によく似た肌触りを獲得した…そのことに僕は
不思議な感動を覚える。

 今書きながらふと思ったのだが…ひょっとするとAJICOは、UAも参加
 したフィッシュマンズの名盤「LONG SEASON」(35分17秒に及ぶワントラ
 ックアルバム)をもう一度小さな曲単位に分解し、それらの曲をアルバム
 やライヴという場で結合させることで、「LONG SEASON」が途中まで開い
 た天国の扉をこじ開けようとしているのではなかろうか? おそらく僕
 の勝手な妄想だとは思うが、それは何と胸の高鳴る妄想だろう。


ライヴは後半ブランキーの曲(「ペピン」)やUAのソロ・ナンバー(「歪
んだ太陽」「ストロベリータイム」「悲しみジョニー」)を交えながら、
虚空の宇宙から遙か遠くにある星々を見たような、その美しさを際だたせ
ていく。「Lake」で幕を開け、「波動」で本編を終え、「カゲロウソング」
で全編の幕を閉じた構成は、AJICOの本質をよく現している。アップテンポ
の曲で盛り上がることもあるが、そんな時も決して赤い炎は燃え上がらない。
青白い炎が、真っ暗な中に静かに、しかし力強く燃え上がるだけだ。静謐で、
冷ややかで、美しく、そして優しく穏やかな「孤独」…

AJICOがこの後もバンドとしてコンスタントに活動を続けていくかどうかは
わからない。この純粋で美しすぎる「孤独」の表現は、UAにとっても浅
井にとっても表現活動の一部分であり、この世界を長期間突き詰めていく
ことは多分無理ではないかと思う。だがそんな「孤独」が彼らの表現の核心
にある以上、AJICOは時々思い出したように息を吹き返すのではないだろうか。


最後になってしまったが、UAと浅井以外のメンバー=ベースのTOKIE
とドラムスの椎野恭一の素晴らしさにも触れておこう。恥ずかしながら、ア
ルバムを聴いた段階では、この二人がここまで素晴らしいプレイヤーだとは
気がつかなかった。決して余分な自己主張をせず、それでいて的確なドラ
ミングで音楽の土台をしっかりと支える椎野のドラムスも見事だが、初めて
見るTOKIEの演奏にはさらに驚嘆した。アップテンポの曲ではエレキ
ベースに持ち返るが、何と言っても素晴らしいのはアップライト・ベースでの
演奏だ。アルコ奏法も交えながら、時にはリズミカルに、時にはメロディアス
に奏でられるそのベース・サウンドは、浅井のギターとまったく同じレヴェル
で音楽の表情を決定づけていた。アップライト・ベースを使ってあそこまで
音楽をグルーヴさせる技術を持ったプレーヤーを、僕は寡聞にして知らない
(少なくとも日本のバンドでは)。スロー・ナンバーにおいても、音楽が過度に
情緒的になったり、テンションが下がったりしないのは、彼女のベース・サウ
ンドがあるからだ。なぜこの音楽活動が、UA+浅井のユニットではなく、
AJICOというバンドの形を取ったのか…その答を嫌と言うほど思い知らされた。

ブランキー時代、たった3人であの分厚いサウンドを作り出していた浅井は、
相変わらず空間の使い方がうまく、包み込むようなサウンドでUAの歌を盛り
立てる。それに応えるUAの歌声は…もはや言うまでもないだろう。

2001年AJICOの旅  2001年2月13日(火) 赤坂BLITZ 

 <曲目>
 
 1.Lake
 2.テイク・ファイヴ
 3.すてきなあたしの夢
 4.美しいこと
 5.金の泥
 6.GARAGE DRIVE
 7.毛布もいらない
 8.青い鳥はいつも不満気
 9.SUNNY
10.フリーダム
11.深緑
12.ペピン
13.歪んだ太陽
14.波動

 (アンコール)
15.ストロベリータイム
16.悲しみジョニー
17.カゲロウソング


(2001年2月初出)

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