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03/01/2005

【映画】『ユンカース・カム・ヒア』 騙されたと思って見てみよう

まず本作の唯一の問題点を指摘しよう。

それはこれだけ高度な内容(「難解」というのではなく、あの人間心理
の綾は、やはりある程度の年齢にならないと理解しきれないと思う)を
持ったアニメでありながら、その絵柄やポスターなどのコンセプトが、
どう見ても単なる子供向けほのぼのアニメにしか見えないこと。
例えば『人狼』であれば3秒映像を見ただけで、誰でも「これは完全な
大人向けアニメだな」と理解できる。一方こちらは、いくら口で「とても
いい映画だ。内容的にはほとんど大人向けだ」などと言われたところで、
このような絵柄や、子度向けとしか思えぬイメージを持った作品を見ようと
する大人が、はたしてどれだけいることだろう? 本来ならこのような
作品は、評論家やマスコミの後押しによって、その真価を伝えられるべき
作品と思うのだが、これではおそらく評論家も試写に足を向けようとは
思うまい。マーケティングと言う見地から言えば、まったくのダメダメ
作品。本作が劇場公開時にほとんど話題にならなかったのも、当然と言えば
当然過ぎる。

そして弱ったことに、映画が始まるや、その違和感は消失するどころか
かえって増幅されることになる。何しろ背景は「サザエさん」並に動か
ないし(笑)、作品全体のトーンからすると、あのオープニングのほの
ぼの/のんびりした感覚には、大きな違和感を感じずにはいられない。
特にひろみとユンカースが最初に部屋に入ったときのやり取り(その演
出)など、妙に子供向けのタッチで、思わず「ああ、朝っぱらからこんな
もの見に来て失敗だったか」と思ってしまった。もしテレビをたまたま
付けてあのオープニングが流れてきたとしても、そこから先を見てみようと
する大人はほとんどいないに違いない。さらに言えばアフレコの声も、
普通のアニメの感覚からするとひどく表情に乏しく、とっつきにくい。
まるで小津安二郎映画の会話をアニメでやっているみたい。もちろん
あれは意図的なものだと思うが、最初の内はかなり異様な感じがした。


しかし…30分を過ぎたあたりからだろうか? それまで平板な印象だ
った映画が、俄然生気を帯び、子度向けアニメの枠を乗り越えた本格的
な「ドラマ」としての姿を現すことになる。


本作のドラマとしての側面は主に二つある。一つは主人公ひろみの初恋
を中心とした「思春期映画(プレ青春映画)」としての側面。もう一つは
90年代における優れた「家族再生ドラマ」としての側面だ。前者の初々
しい描写も素晴らしいが(あの尾行シーン、最高)、クライマックスと
なるのは後者の方だ。

その時代の家族の崩壊状況/コミュニケーションの破綻を描いたという
意味で、本作を90年代の『東京物語』と賞賛する声は、決して的はずれ
ではない。だがそれ以上に僕が本作のクライマックスで想起したのは
『シックス・センス』だった。僕は『シックス・センス』をそれほど
高くは買っているわけではない。最大の理由は、あの少年が自らの能力
を受け入れ、母親とコミュニケーションを通わせることになるクライマ
ックスがひどく唐突で、説得力に欠けるものとして映ったからだ。あん
なことで解決するなら、今まで何をお前は悩んでいたんだ!と言いたく
なる。とても安易で曖昧な結末だと思う。『ユンカース・カム・ヒア』
のクライマックスは、ある意味『シックス・センス』のそれに非常に
よく似ている。だがその説得力、繊細な演出、そして感動の強さは『シ
ックス・センス』を遙かに凌駕している。

先ほど本作の核となるドラマを二つに分けたが、念のために言うと、その
二つは決して分裂しているわけではない。「人間の言葉を話し、三つの
奇跡を起こせるユンカース」という犬の存在も含め、この作品は幾つもの
主旋律・副旋律が絡み合いながら、その全てが「思いを言葉にして伝える
ことの大切さ」というテーマへ結実していく。
もちろん思いを言葉にすることで全てが解決するわけではない。だがその
結果として生じる痛みや哀しみもすべて踏まえた上で、この作品は人と人
のコミュニケーションを優しく肯定していく。ひろみを取り巻く環境は
必ずしも改善されたわけではなく、問題がすべて解決されたわけでもない。
にも関わらず、見終わってとても穏やかな感動に身を委ねられるのは、
本作のメッセージがすべての人に対して開かれており、見る側もそれに
対して自分の心を静かに開くことが出来るからだろう。


本作のドラマが大人向けであることは確かだが、僕の隣に座っていた8歳
くらいの女の子たちが見終わってすぐに「面白かったね〜」と言っていた
とおり(でもクライマックスでトイレに行かないよう、オシッコは見る前
に済ましておこうね(^_^;)>君たち)、子供にも十分にアピールする面白さ
を持っている。そしてひろみと同じ世代の子供(小学校高学年〜中学校)に
は、思春期映画としての要素がきっと受けるに違いない。ドラマの核と
なる部分はまだ理解できなくても、大人になって見直したとき、そのドラ
マの奥深さに改めて感動できる…それはとても幸福な映画体験であるに
違いない。

(2000年8月初出/2001年1月改訂)

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